それぞれの理由 １ ページ23
外が白んできた。
伊野尾は診察室兼処置室から出入り口をカーテンで仕切られた隣の部屋の入院部屋に移動させられている。
ベットも簡易ベットから普通のシングルベットだ。
入院部屋は２０畳ぐらいあるだろうか。
部屋の四隅に１つずつベットと棚付きの小さな机が置かれている。
そして、プライバシーを守るための間切りのカーテンが天井から下がっている。
入院部屋には伊野尾以外いない。
広い部屋で優雅に１人だ。
でも、落ち着かない様子で伊野尾は布団に包まり寝返りを繰り返す。
処置室と入院部屋を仕切るカーテンがゆっくり開く。
八乙女「寝られない？」
八乙女が優しい笑みで問い掛ける。
伊野尾「………………」
伊野尾は布団に包まったままそっぽを向いて答えない。
八乙女「体、休めないと治らないよ。」
八乙女はそう言い残して踵を返そうとした時だった。
伊野尾「あんたは寝ないの？」
伊野尾がやはり布団に包まったまま背中越しに口を開いた。
八乙女「寝ないよ。」
突然の質問に一瞬驚いたようだったが、ニコッと微笑みながら答えた。
伊野尾「俺の見張り？」
伊野尾はハァ〜っとため息をつきながら呆れたように言う。
八乙女は一瞬きょとんとしたが、ぷっと吹き出す。
八乙女「はははっ。違うよ。寝ないんじゃなくて、寝られないの。」
相変わらず穏やかな表情で穏やかな口調で、理由のわからないことを言う八乙女に伊野尾は眉をひそめる。
八乙女「だから、違うよ。」
伊野尾「…………なんか、ごめん………」
伊野尾はぶっきらぼうだが、小さな声で謝る。
八乙女「気にしないで、名無し君。」
伊野尾「………伊野尾。」
八乙女「んっ？」
伊野尾「俺の名前。……伊野尾 慧。」
八乙女「そっか。じゃ〜………伊野ちゃんだね。」
伊野尾「伊野ちゃん？」
伊野尾は気恥ずかしそうに眉をひそめ、顔だけを八乙女に向ける。
八乙女「そう。伊野ちゃん。」
伊野尾「いいよ。好きに呼んで。」
伊野尾は再び布団に潜り込み目を閉じた。
八乙女は伊野尾が落ち着いたのを確認すると静かに部屋を出た。
八乙女は診察室の椅子にストンと座ると、カルテの患者名にカタカナで「イノオ ケイ」と書いた。
そして、伊野尾の血液検査の結果を凝視する。
八乙女「これ…何型っていうだろう。」
特別な存在は、時として残酷だ。
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作者名：サツキ | 作成日時：2023年11月7日 19時
