追憶-2 ページ4
高校時代、仲良く過ごしながらも密かに思いを寄せていたAは遠方の大学へ進学し、すっかり疎遠になってしまっていた。俺はAへの思いを捨てられないまま、大学生活を淡々と過ごし、成人の日を迎えた。成人式の日の夜、開かれた高校の同窓会で久しぶりに彼女と再会し、俺は高校時代の恋心を思い出していた。しかし、そこで聞かされたのは大学で彼氏ができたという話だった。酒も進み、いつの間にか人も疎らになっていって、気付けば知らない居酒屋に数人で集まっていた。当然楽しい飲み会の筈なのに、俺はどうしようもなく苛々していた。今まで思いを伝えなかった自分にも、俺が居なくても何てことないAにも。ちょっと電話出てくるね、なんて言って席を立ち、一度店を出るA。酒でうまく回らなくなった頭でも、彼氏からの電話なんだろうということは分かる。それも何だか腹立たしくて、彼女の後を追って俺も席を立つ。みんなそれなりに酒が回っているのか、風に当たってくると適当なことを吐いても、誰も止めてくることはなかった。居酒屋の扉を開けると、1月の冷たい風が頬を霞めて、痛いほどの寒さだった。白い息を吐きながら、笑みを浮かべて電話口の向こう側と話していたAは相変わらず可愛くて、なんで俺の彼女じゃないんだろうと酒でふやけた頭で考えた。俺の姿に気がついたAの腕を強く引いて、細い路地に連れていく。困惑したような声が後ろから聞こえるが、もう止まれなかった。俺はAを壁に押し付けて強引に唇を重ねた。唯一暖かいそこは、頭がおかしくなりそうな甘さで。「っやまと、」と溺れそうになりながら弱く鳴くのも、俺の胸を押して抵抗しているのも、俺を駆り立てる要因にしかならず、無我夢中で何度も唇を重ねた。どれくらいそうしていたのかは分からない。ふと、顔を離すとAは涙を零していた。酔いが急に冷めていくのがわかった。咄嗟に出た言葉は「ごめん」。恐怖からか、寒さからか、それとも泣いているからか、肩を震わすAを見ていられず俺は彼女の前から立ち去った。そのあとのことはよく覚えていない。
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作者名:sukeru | 作成日時:2022年11月4日 11時