（短編小説） (ページ3)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:3,183 hit

追憶-１ページ3

撮影の合間、気分転換がてらコンビニに何か買いに行こうと事務所を出た。まだ秋だと言うのに、夜風は冷たく体温を奪っていく。こんなはずじゃなかったと上着を着てこなかったことに後悔し、体を擦る。話題のお菓子と雑誌とレッドブルを買って、事務所に帰ろうとコンビニから出たときのことだった。「、大飛」左側から聞き覚えのある声がして振り向くと、そこには高校時代の同級生のAが居た。偶然だったのだろう、彼女の瞳は丸く大きく開かれていて、驚いている様子だった。「…おー、Aじゃん。久しぶり。」久しぶりに会った彼女はすっかり大人びて見えた。「少し話せる？」その言葉に一瞬ドキリと緊張が走る。焦った表情を見せないように、撮影の合間に抜けてきたからあまり時間がないと彼女に伝えた。「じゃあ、そこまで一緒に」彼女の指さした先に見えるのは大きな交差点。さほど距離はないことに安堵し、その提案を受け入れた。帰る方向は一緒なんだなんて頭の中で考えながら、彼女の速度に合わせて歩き出す。「Aは今何してんの？」彼女に口火を切らせないように、俺は先に口を開いた。話題なんて、なんでもよかった。しかし彼女は質問に答えないまま、少し俯いて俺の名前を呼ぶ。これは。「あの時のキスは、何だったの？」一番恐れていた言葉だった。Aの姿を見たときから、俺は内心ずっと焦っていて、この言葉をぶつけられることに怯えていた。Aはちらりとこちらを見たが俺からの返答がないことに苦笑を浮かべて、すぐに前を向いた。一方の俺は返す言葉を探していた。

追憶-２→←半宵