甘い乾き

# 時間の潰し方 ページ10

何度も言ったように
あたしは外に出られない。
もちろん仕事はできない。



やまと1人の収入で充分豊かに暮らせるから
生活の問題は無いのだけど、暇で暇で仕方ない。



ペットは飼えないし平日の昼間に面白いテレビはやってない。
頭を使って考えたのは、勉強すること。
と言っても国語や数学ではなく、彼の心と体を癒す目的での勉強。



具体的なゴールは、アロマセラピストの資格取得。
こういう状態であってもあたしはやまとが好きだし
やまとの役に立ちたい。
囲われて、守られているばかりでは嫌だった。



このことはやまとに話して、渋々承諾を得ている。
資格への1歩として受けるアロマセラピー検定の対策講座は
バリバリ動画に上がっているし、テキストも買ってきてもらった。



それと実際にアロマオイルで使われる
ハーブもベランダで育てている。
アロマのことに没頭している時が1番楽しい。



｢水やるかあ、｣



1人でそう呟いてベランダに出た。
あたしが出られる外は、ここだけ。
椅子とテーブルを置けるぐらいのスペースはあるから
たまにここで景色を見たりするんだけど。



昼間は皆仕事してるから行き交う人はあまりいないんだよな。



…あれ、珍しく居た。
若そうな男の人が1人、コンビニの袋を提げて歩いてる。
その姿には、見覚えがあった。



｢…うわ、｣



咄嗟に体が動いていた。
向こうからじゃ見えないと分かっていても、その場にしゃがみこんだ。

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