甘い乾き

# 見抜く彼と、見抜けない彼 ページ38

｢…なんか溜まってることない？って
聞かれたの｣



そろりとドアが横にスライドされて、
ビーフシチューパイとステーキが運ばれてきた。



腹減ったと言って何よりも注文を急いだひゅうがは
それらをちらりとも見ず会釈だけ返してあたしの目を見つめている。



｢言ったって意味ないじゃんと思って、ないって言った｣


｢けどわがまま言っていいって言われたのが、まるで今の状況は
あたしが望んだみたいな言い方に思えて｣


｢ちょっと腹立ったからあたしのことなんか
気にしないでって言った｣



このまま話を聞いてもらうのは申し訳なく
あたしからスプーンを持ってパイに突き刺した。
食欲をそそる香りがふわっと個室に広がって、
ひゅうがもナイフとフォークを手に取る。



肉を1口放り込んで彼が言った。



｢Aは外に出たいんだな｣



肉を切る時も、あたしから目は離さない。



約1年ぶりに会うひゅうがは数分であたしの意図を見抜くのに
1年同棲してる彼氏がどうして見抜けないのか。



近いからこそ見えないのか、それとも
やまとはあたしが見えていないのだろうか。



｢…うん。だからゆうたの話にも乗った｣


｢何でやまとには言えないの？｣


｢言ってまたあの日みたいになるのが怖いから｣


｢何であの日と同じになるって分かんの？｣



何で、あの日と同じになるのか？
そんなの分からない。
でもあたしは、あの結末しか知らない。



ああならなかった未来を知らない。
だから、縛られてるんじゃんか。

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