甘い乾き

# でーとでーと2 ページ33

彼は本当に、終始笑っていた。
運転中も常にあたしに触れながら
楽しい楽しいと連呼した。



動画では見れない姿。
いや、ファンの子は見たくないか。
どうか誰にも見つかりませんように。



『なんか欲しい物ある？社長が何でも買ってあげるよ？』



バレないようにマスクもバケハも被ってるから見えないけど
運転中のやまとの横顔は写真に収めたいくらい綺麗なんだよな。



『ねーおねーさん聞いてる？笑』


｢ほ？何ー？｣


『今からお店回るけど、なんか欲しい物あるかって笑』


｢んー…いちご飴食べたい｣



服やアクセや靴は全部やまとが決めてくれるから
こだわりが特にない。
だから自然とやまと好みの女になってる。



『うん可愛すぎる、任せろいちご飴だな』



あたしが欲しいのは食べ物と自由な時間だ。
後者のものは、言えないけれど。



『服買っていちご飴行って生活用品買ってスーパーでいい？』


｢ん、いいよ｣



というわけでまずは元気なうちに服を見に行くらしい。
後半になると選ぶ気力がなくなってくるから、と。



服を買うことすらも業務で、購入品紹介という収益になる。
プライベートのない仕事だけど
その分何でも利益や楽しさに繋がる良い職業だよね。



やまとの行きつけのお店から
少しだけ離れた駐車場に車を停めて
バケハを深く被った彼が先に出る。



周りに若い子がいないことを確認してから
助手席の扉を開けてくれた。



『行くよ』



外ではくっつかない。
万が一撮られた時のための｢従姉妹｣という言い訳が聞かなくなるから。



『Aと買い物久しぶりだね？』


｢…ね！｣



買い物はもちろん楽しい。
でもそれ以前に、外を歩けるということが楽しかった。



コソコソせず…いやコソコソはしてるけども
バレてはいけない対象がひとつの方向に
定まっているということが
あたしの心を落ち着かせた。

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