甘い乾き

# 最悪だ. ページ8

目の前にいたのはゆうた。
何の感情も見えない目で
あたしを一瞬見つめた後、あたしの上から退いた。



『お前何やろうとしたんだよ…何したんだよ！』



やまとの怒鳴り声を聞いてバタバタ駆けつけてきた3人。
皆目を点にしてどうしたことかと理解に苦しんでいる。
1番早く冷静な判断を下したのは、ひゅうがだった。



怒りが爆発したやまとの隣に寄り添い
決して手は出さないよう牽制する。
ゆうまもそれに便乗して、ひゅうがの逆側に身を置いた。



『聞こえてんの…？何やろうとしたって聞いてんだよ、』


｢やまと、｣


『Aは黙って。俺今ゆうたに聞いてる』



ゆうたの表情は変わらない。
空気だけがどんどん重くなっていく。



すると高身長3人の後ろに隠れて見えなかったあっちゃんが
するりと前に出てきた。



いつもの優しい笑顔で笑いかけてくれる。



あ｢あっちの部屋行こっか｣



あたしに向かって手招きする。
それに従うしかこの空気から逃げ出す術はなくて
あっちゃんの背中にぴったりくっついて寝室を出た。



｢……あっちゃん｣


あ｢大丈夫だよ。ひゅうがもゆうまもいるから｣



何も変わらない、普段通りのあっちゃん。
今のあたしにはそれがすごくありがたかった。



あっちゃんだってメンバーの喧嘩は怖いはず。
動画でのドッキリに毎回安心したら
すぐ泣いちゃうあっちゃんなのに。



この状況が1番嫌なのはきっと彼なのに
そんな素振りを一切見せず、向こうが落ち着くまで
ずっと隣にいてくれた。



編集でやらかしたこと、撮影中嬉しかったこと、
新しい仕事が決まってくプレッシャーなど。
口下手なあっちゃんからは想像できないぐらい
沢山喋ってくれた。



おかげであたしは、とっくに記念日が過ぎたことも
さっきの恐怖も少しずつ薄れていったのだ。

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