花ことば ( Ⅲ ) (ページ29)

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背中をさすってくれる手は

注がれたばかりのグラスに伸び、

ちょっと外行ってみよっか、

と耳元で囁く声に操られるみたいに

少し寒い風にあたりに行く。

ぴったりとくっついてるところだけは

ぽかぽかしていて、

それだけで安心できそうだった。

新しい味のカクテルは、

" スクリュードライバー " というらしい。

ふわふわとした酔いが

私を追い始めてきているみたいだったので、

爽やかな酸味と自然な甘みを

一口だけ味わった。

ほんのり赤らんでいるであろう頬は

飛貴も同じで

ぬくもりのある光が交じる夜景は、

キャンドルのように揺れていた。

飛「かっこよかった？その人」

「…うん。かっこよかった」

飛「いい恋できた？」

「できたかも、」

飛「A、」

「うん？」

飛「俺が全部掬うから」

その言葉通り、

彼の手は私の頬ごと包み、

甘い唇を掬うように重ねてくれる。

胸が締め付けられるような甘さは

それが初めてだったかもしれない。

一度離れたその唇の温度は

またしても私の心を踊らせる。

消えてはついてを繰り返すような

高層マンションの窓は恋の終わりみたいで、

時々がる水飛沫は感情の起伏みたいで、

船上や進み先に見える無数の明かりは

未来の道標みたいで、

真横で肩を寄せ合う私達は

今宵の主人公のようで、

目の前の絶景も、

まだ残るぬくもりも、

ときめきの魔法をかけてくれるみたいだった。

だからそこに誓ってみるんだ。

もう君以外愛せない、

愛さないってことを。

何処でもない何処かに帰りたい夜は

今日でおしまい。

そのおしまいが始めた何かを

私は知らない。