果たすために 沖田side ページ49
「…良かったって、何がでィ」
『魔王が一緒なら、大丈夫だなって思ったから』
電話越しに伝わってきたその声は。言葉は、一度電波を通して来ただなんて信じられないくらいに明瞭に、そしてダイレクトに俺に届いた。まるで、目の前で陽太がそう言っているみたいに。俺の目をあの、Aとそっくりな丸っこくて純粋で綺麗な目で真っ直ぐに見つめながらその言葉を口にしているみたいに。当然のことだが、目の前を見据えてみても、そこには向かい側にある壁が無機質にあるだけだし、陽太はここには居ない。それなのに、こんなにも直に聞いているような気分になるのは、どうしてだろう。分かるような気もするし、分からないような気もする。
けれど今は、それをひとつひとつ手に取ることよりも、この生意気なクソガキの言葉に耳を傾けることに集中していたかった。聞き逃したくはなかった。俺の覚悟の一貫として。
陽太は、子供ながらに懸命に考えながら言葉を発する。少しの間が空いて、それを俺は待つ。そうして、電話の向こうのソイツは続ける。
『うちいりって、きっと危ないところに行くんだよね。僕を捕まえた人達みたいな人が居るんだよね』
「…あァ」
陽太は以前、過激派攘夷組織の連中に拐かされたことがある。だからこそ、戦場という場所の恐ろしさを、分かってしまっている。
『僕ね、お姉ちゃんが心配だよ。心配だから、言えないけどあんまり行ってほしくはない』
「…うん」
俺も、同じだった。
『でも、魔王が居るなら、お姉ちゃんのこと、護ってくれるよね』
前に約束したこと、覚えてる?と。ソイツは言う。俺は思い出す。陽太が姉を想って、俺に口にした言葉を
『お姉ちゃんのこと、これからも護ってあげてね』
『僕が居ない間は、沖田さんがお姉ちゃんのヒーローになってあげてね』
その時俺は、「まかせとけ」なんて言ったのだ。俺は危うく、この小さなガキとの約束すら、見落としてしまうところだった。
そんなことは、もうしない。俺はあの時よりも確かに、大きく頷いた。それは、改めての決意のようなものだった。
「あァ。テメーの姉ちゃんは、俺が必ず護る」
「…ッ!」
隣に居たAが、俺の言葉に目を見開く。けれどすぐに、その顔を綻ばせる。ふわりと、頬を桃色に染めて、嬉しそうに。
「だから、心配することなんざ何もねェよ」
俺達は、これから先を、二人で生き抜くのだ。
『…うん、お姉ちゃんを、お願いします、沖田さん』
…約束を背負って。誓いを抱いて。
それでも俺は前を向く。Aと共に、約束を果たすために。
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樹里 - 今回も陽太くんかっわいいっ!!うちの弟もこうだったらなぁ〜 あと、全然関係ないんですけど、名探偵コナンに沖田総司っていう人が出ててめっちゃびっくりしました。ちょっとパクられたような気がしたんで、ソッコーでコレ読みました(笑) (2018年10月7日 18時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 樹里(元茉莉華)さん» 樹里さん!お久し振りです!コメントありがとうございます!いい感じのところですね〜私もここらへんは苦戦しつつも書けるときはとことん楽しんでいたので、うまいこと盛り上げられたらいいなと思います!着実に成長していく二人をお見のがしなく!(笑)頑張ります! (2018年9月26日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
樹里(元茉莉華) - ピピコさんお久しぶりです! なんかいい感じのとこですねっ!! 更新楽しみにしてます! (2018年9月25日 17時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ヒタキさん» ヒタキさん!初めまして!ありがとうございます!いっぱい読んでださってるんですね…!すごく嬉しいです!何度も読み返してもらえるようないいお話が書けていたらいいなと思います!これからもドキドキワクワクして貰えるように頑張っていきます!! (2018年9月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ヒタキ - こんばんは!初コメさせていただきました。ピピコさんのこの小説本当に大好きで何回も読ませてもらっています!!いつもドキドキワクワクです。これからも応援しています^^ (2018年9月6日 23時) (レス) id: 130f1442ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月15日 19時