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第54話 兄の決意 ページ5

ノーマン「塀の向こう。とても、飛び降りられる高さではなかった。」

エマ「…え…崖?」

ノーマン「うん。シスターは嘘をついていなかったし、鬼は家畜(ぼくら)をナメてはいなかった。
だから塀に沿って、端まで行ってみたんだ。塀は二股に分かれていて、丁度60度ずつ。片側はやはり断崖。二股の塀の内にはまるで対称…そっくり同じ景色が広がっていたよ。
レイのおかげで混乱はしなかった。つまりこういうことなんだ。
飼育場(プラント)は塀を挟んで隣同士。6つの区画の内、ここ第3プラントの真西にあたるこの区画、恐らくここ(・・)が本部。
なぜなら周囲は絶壁──だけど、この区画の先にだけ橋があった。
“逃げるなら(ここ)から”だ。」

コンコン、ガチャッ

フィル「ノーマン、ママが呼んでるー!」

ノーマン「今行くって伝えて。」

お兄ちゃんはフィルにそう言い、スーツを着て、トランクを持った。

ノーマン「これ返すよ。僕は使っていない。」

レイ「!?」

ノーマン「だからまだ使える。Aとエマとレイが出る時に使うんだ。」

レイ「お前…ッ
つまり最初から(・・・・)戻るつもりだったんだな!
そうだ…崖は戻って来たのと関係ない…こんな報告、潜伏しながらでもできるもんな!
…っなんで…言ったじゃねぇかよ…一緒に生きるって…なのにお前は最初から──」

ノーマン「うん。ごめん、嘘ついた。
僕は間違えるわけにはいかないんだ。誰一人死なせないために。
僕が逃げたら計画が狂う。脱獄が難しくなる。
仮にわずかでも、それじゃ困る。僕は万が一にも負けたくない。
何を言ってもムダだよ。決意(きもち)は変わらない。
今日、できるだけのことはやってきた。後は頼む。脱獄を必ず成功させて──」

ギュッ

A「!」

ノーマン「あったかい…今までありがとう。三人のおかげでいい人生だった。楽しかった、嬉しかった、幸せだった。」

お兄ちゃんと過ごした日々を思い出し、私は涙が溢れてきた。

A「お兄…ちゃ…」

レイ「くそっ…チクショウ…チクショウ!」

エマ「ねぇ、ノーマン…やっぱり、今からでも逃げよう?逃げて、森へ隠れよう?」

お兄ちゃんは、私達から離れて、微笑んだ。

ノーマン「決意(きもち)は変わらない。さっきそう言ったでしょう。
それじゃ…」

A「まっ…」

伸ばした手は、お兄ちゃんに届かなかった。

パタン

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作者名:苺の花 | 作成日時:2019年6月11日 2時

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