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夕食の準備が終わり、ヒカゲとヒナタに手を引かれて座布団に座ったAは、『あ』とつぶやいてから恥ずかしそうに言った。
『……おトイレいってもいい？』
「ああ。ヒカ、ヒナ、案内してやれ」
「「うっせぇ、指図すんな！ 来いよA！」」
矛盾したことを言う双子に、紅丸と紺炉は苦笑した。
静かになった居間で、紅丸は紺炉に言った。
「紺炉、Aが本当に別の世界から来たと思うか」
「……はい。そういうオカルトチックなのは信じてないつもりですが、でもそうでないと説明出来ないことが多すぎる」
「そうだな……早く帰してやらねぇと可哀想だけど、どうすりゃいいのかもわかんねぇな」
「何かの拍子にパッと消えちまうんでしょうか」
「さあな。後でAに聞いて――」
紅丸はピタリと言葉を止めた。
紺炉は首を傾げる。
「若？」
「……何の話してたんだっけか」
紺炉は「はい？」と眉をひそめた。
「何って…………あれ」
「……飯、一人分多くねぇか」
「え？ あ、ああ……何で一人分多く作ったんでしたっけ？」
互いに怪訝そうな顔を見合わせる二人のところに、ヒカゲとヒナタが走ってきた。
「若！ Aがいなくなった！」
「若！ Aが目の前で消えたんだよ！」
「は？ お前ら何言ってんだ？」
「若こそ何言ってんだ？ Aだよ、A！」
「紺炉も何変な顔してんだ！」
「ちょっとお前ら落ち着け」
ヒカゲとヒナタは、どこか不安そうに顔を見合わせた。
嫌な予感がしていた。
「お前らさっきから何のこと言ってんだ？ Aって誰だよ」
「は？ 若覚えてねぇの？」
「だって――なあ紺炉、Aいただろ！？」
「A……？ 誰だ、そいつ……」
ヒカゲとヒナタは紺炉が運んで行こうとしている夕食を見て、また顔を見合わせた。
やっぱり夢じゃねぇな。
でも、なんで紺炉に若まで覚えてねぇんだ？
もしかしたら、Aは帰っちまったのかな？
目で会話するヒカゲとヒナタに、紅丸と紺炉もまた難しい顔をした。
ヒカゲとヒナタはお互いに頷き合うと、普段より少し元気のない声で言った。
「「……ヒカとヒナの気のせいだ」」
「……？ そうか」
「「でも、それは置いとけ！ ヒカとヒナが食う！」」
「は！？ そんなに食うのか！？」
「「食う！！」」
Aのことは、ヒカとヒナの内緒だ。
二人はそう心に決め、米をかき込んだ。
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作者名：月木あや | 作成日時：2023年7月19日 12時
