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日が沈み始めた頃。
浅草の街に鐘の音が響いた。
「火事だー！ 火事だー！ 焔ビトが出たぞー！」
即座に紅丸は立ち上がり、暖簾を潜って出ていった。
Aはきょとんとして紺炉を見つめる。
紺炉はその視線に笑いながら言った。
「若は第7特殊消防隊の大隊長なんだ」
『だ、だいな……だいたいちょ……』
「つまり、強い消防士ってことだ」
『しょうぼうしさん……？ じゃあ、かじをけしにいったの？』
「ああ。遠くから見てみるか？」
『……でもわたし、ほのおこわいから……』
「……そうか。でもな、若の炎は怖くなんかねぇ。
そう微笑んだ紺炉を見て少しだけ、本当に少しだけ、紅丸の炎が見たくなった。
そんなAの気持ちを感じ取ったのか、紺炉はもう一度聞いた。
「若の鎮魂、見に行ってみるか？」
Aは何度か口を開けたり閉じたりした。
わかってる。
しょうとだっておとうさんとぜんぜんちがう、とってもやさしいほのおだもん。
みんながみんな、こわいほのおをつかうわけじゃない。
でも、でも――
『…………いってみたい』
『すこしこわいけど……』と言いながら頷いたAに、紺炉は「分かった、連れてってやる」と頼もしく笑った。
後ろで「Aだけずるい！」「ヒカとヒナも連れて行け！」と文句を言うヒカゲとヒナタを宥め、紺炉はAをおんぶして外へ出た。
外は、走り回る火消したちと避難する町民たちでごった返していた。
紺炉は火元から十分距離がある民家の屋根に登った。
「あそこだ、見えるか？」
『うん、マルバツのおにいさんいる』
「若と向かい合ってるのが焔ビトだ」
『……くるしそう』
「……そうだな」
自我を失くし、ただ暴れる焔ビト。
Aは無意識に一番上の兄を思い出していた。
彼の結末は、入院中に焦凍から聞いていた。
あつかったのかな。
いたかったのかな。
くるしかったのかな。
わたし、ひやしてあげられたのかな。
『――ひやして……』
ポツリとつぶやく。
紺炉がきょとんとして視線をよこすのがわかる。
Aは独り言のように言葉をこぼし始めた。
『いちばんうえのおにいちゃんはとうやにいっていうんだけどね、わたしがしらないうちにしんじゃったの』
「兄貴は焔ビトに……？ いや、焔ビトはいねぇんだっけか」
『うん』
Aは頷いた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2023年7月19日 12時
