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「…………は」
纏に乗り空から鎮火を試みていた男は、目の前でおきた光景にそうつぶやいた。
なんなんだ、これは。
さっきまで火の海だっただろ。
何が起きた。
一瞬で凍ったのか？
なんでこんなに静まり返っている。
意味が、わからない。
呆然としたまま地面に降り、今さっきまで刺又で燃え広がりを防ごうと動き回っていたはずの町民に近づく。
その間も、足先から凍るような冷気を感じている。
そのとき、氷が吸収されるようにすうっと消えていった。
男は咄嗟に消えていく氷を追いかけた。
その中心にいたのは、小さな小さな少女。
火の海の中心にあったはずの建物の外で、パタリと倒れている。
「――なんなんだ、これは」
そう溢した男の側にどんどん人が集まる。
「……おい紅ちゃん、なんだったんだよ今のは」
「……俺にもわかんねえ……お前ら全員無事か！」
「ああ、全員怪我すらしてねえ！」
ザワザワとし始めたそこに、だんだん火消し以外の町民たちも集まってくる。
とりあえず少女が目を覚ませばはっきりするだろうと考え、男は意識のない少女を抱えてその場を離れた。
――――あつい。
――――あついよ。
――――みぎてがもえてるみたい。
――――いたい、いたい。
――――おねがい、やめて、
――――わたし、こんどこそきっとしんじゃう。
『やだ……やだ……やめて、おねがい……もうやめて……いたい…………おかあさん……』
大きな布団で、ボロボロ涙を溢しながら魘されるA。
二人の男はその横に胡座をかいた。
「……ずっと魘されてんな」
「“おかあさん”か……」
「……“いたい”って、その母親にやられてんのか」
「……若、起こしてやりましょう」
大きな男がそう言ったのと同時に、Aはハッと目を覚ました。
恐る恐る右腕に触れて、ホッと息をつく。
そしてやっと、自分の近くにいる男たちに気がついた。
トラウマを掘り起こすような夢のせいもあり、咄嗟に男たちから逃げようと布団を放った。
「おい、逃げんじゃねぇ」
はっきりと端的に放たれた言葉。
圧の掛かった声に、Aはガタガタ震えながらその男を見た。
男は、Aの瞳に目を見開いた。
――こんなの、子どもがする目じゃねえだろ。
――なんだ。
――なんだ、この暗闇は。
あまりにも怖がるAを見ていられなくなったのか、男は少し声を柔らかくして言った。
「そこ座れ」
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作者名：月木あや | 作成日時：2023年7月19日 12時
