3 ページ3
『う〜ん、みつかんないねぇ』
「やっぱりこんな知らないところだから、見つかんないよね……」
しょんぼりと俯く男の子に、Aはきょとんとして問いかけた。
『――くん、このあたりきたことないの？』
「うん。実は、ヒーローてんを見にちょっととおくから来たんだ」
『そうなんだ……！』
とおくから！
とおくって、どれくらいとおくだろう？
どんなところなんだろう？
行ってみたいなぁ。
心の中でそうつぶやいていると、突然男の子が「あ、」と声を上げた。
「出久っ……！！」
「お母さん……！！」
男の子――緑谷出久は、ぱっとAの手を離して母に飛びついた。
出久の母は疲れ切った顔をして、汗でびっしょりだった。
「どこに行ってたの……！ 怪我はない？ 何もなかった？」
「ないよ。勝手にどっかいっちゃってごめんなさい……」
「すごく心配したんだから……！！ もう絶対に一人でどこか行かないで！」
「うん、わかった……あっ、そうだ。あのねお母さん、Aちゃんがいっしょに探してくれたんだ」
出久はちょっと離れたところで二人を見ていたAに手招きすると、母に紹介した。
両親以外の大人に会うなんて滅多にないから、Aは少し足がすくんだ。
そんなAに出久の母は微笑むと、頭を撫でてくれた。
「出久と一緒にいてくれてありがとう。Aちゃん……で合ってる？」
『う、うん。どういたしまして。いずくくんのおかあさんみつかってよかった』
ぎこちなく、でも心からAは微笑み返した。
出久の母はもう一度「本当にありがとう」と言って、鞄の中に手を入れた。
「こんなものしかなくてごめんね。お礼にこれあげる」
『あ……ひとくちホットケーキ……』
だいぶ前にスーパーで見かけたお菓子だった。
「それ、すっごくおいしいんだよ！ 僕もよく食べてる！」
『そうなの？ ならいずくくんたべたいんじゃ……』
「いいのよ、出久にはまた買ってあげられるし。それよりも、お礼、受け取って？」
『ありがとう……おうちかえったらたべてみるね』
きゅっとお菓子の袋を握りしめ、Aは恥ずかしそうに微笑んだ。
――ホットケーキ、じつはあんまりすきじゃなかったけど、いずくくんがそういうならたべてみようかな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 495人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月木あや | 作成日時：2023年7月19日 12時
