101.報告 ページ8
冬美は言いにくそうに視線を泳がせる。
「……Aがね、少し……その……」
モゴモゴとしている冬美に、炎司は言った。
「俺に遠慮しているなら、その必要はない。覚悟はもう出来ている」
「……うん、わかった」
真っ直ぐな目にしっかり頷き、冬美は一つ深呼吸をする。
そして、はっきり言い放った。
「Aは、お父さんに強いトラウマを持ってる。もともとは私たちにも恐怖感はあったらしいんだけど、焦凍が少しずつ改善してくれてるの」
「……」
「それでね、Aは今6歳でしょ。今年から小学生になるけど……これまでは雄英のサポートに依存してて、戸籍の変更もしてなかったらしいの」
「その変更についての話し合いか」
「……うん、それもそう。でも、もう一個大事なことを話し合ってきたの」
大事なこと？ と首を傾げた炎司。
冬美は「やっぱり言わなくても……」と一瞬考えたが、「先生方に、今日話すって言ったでしょ！ それにお父さんも遠慮するなって言ってくれたでしょ！」と首を振って続けた。
「きっと、Aのトラウマが完全に消えることはないと思う。これから何かある度に怖い思いをさせるなら……私が、Aを養子にしようと思ったの」
途端に目を見開いた炎司。
よほど驚いたのか、膝を座卓にぶつけていた。
冬美は申し訳無さそうに眉を下げた。
「その……私勝手に、お父さんはAのこと嫌ってるって思ってて……」
「……いや、昔を思えば当然だ」
炎司は大きく大きく息を吐き、額に手を当てた。
当然だとは言ったが、少なからず凹んでいた。
「今は、ちゃんと向き合いたいと思っている。出来るなら……会いたいと」
「……私も、出来るならそうしてほしいと思う」
「……だが、きっとAはそう思ってない」
冬美は目を伏せた。
もちろん、本人に聞かなければそれはわからない。
だが、少なくとも「ぜひ会いたい」とは思っていないだろう。
冬美は、焦凍からAが過呼吸になったことも聞いていた。
話題に出すだけでああなるのだ。
会うだなんてとんでもない、と正直考えてしまう。
そんな冬美の考えに気づいているのかいないのか、炎司は一度首を振って言った。
「Aのトラウマは、俺の責任だ。Aが怖がるなら、俺はAには関わらないと約束しよう。……養子のことも、同意する」
「……そっか」
冬美は、気の利く返事を口にすることが出来なかった。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
