100.父の思い ページ7
「……これ」
そこにあったのは、昔――Aとまだ関係が悪くなかった、Aが1歳のときの写真。
焦凍とAの双子がすやすやと眠っていて、二人は小さな手を握り合っている。
その下には、幼い燈矢の写真もあった。
炎司は一つ息を吐き、普段よりずっと小さな声で言った。
「……焦凍が変わり始めて、Aと燈矢のことを思い出した。あいつらは俺が殺してしまったと、そう思った」
冬美は、何も言わずに目を伏せた。
その手にある写真を見つめ、炎司は更に小さな声でつぶやくように言った。
「……Aは元気か」
――ああ、お父さんも本当に変わったんだ。
冬美は伏せた目から涙が溢れるのを感じながら、大きく頷いた。
「…………そうか」
そう一言つぶやき、炎司は目を伏せた。
その目にはもう、冷たい炎は揺らいでいなかった。
あの日の会話を聞いて、だいたいのことは把握していた炎司だったが、もう一度冬美から詳しく説明してもらった。
今どんな生活をしているのか、どんな気持ちで過ごしているのか、何度も何度も聞いた。
――焦凍とすごく仲良しでね、二人ともお互いが大好きすぎるんだよ。
――ずーっと離れないの。
そう言って笑った冬美は、父がほんの少しだけ嬉しそうに「……そうか」とつぶやいたのを聞き逃さなかった。
まだAのトラウマは消えていないし、今後良くなるのかすらわからない。
だが、確実にいい方向へと進んでいる。
冬美は、それが嬉しくてたまらなかった。
「ねえお父さん、この写真、コピーして私にもくれないかな」
「どっちをだ」
「どっちも」
「わかった。明日、事務所のコピー機で印刷してくる」
「ありがとう」
手帳を受け取り大切にしまう炎司に、冬美は今日のことを思い出した。
今の父の様子でも、養子にする必要があるのだろうか。
もしかしたら、今の父ならAも怖がることないのではないか。
それに――そのことを父に話したら、父はショックを受けるのではないだろうか。
もちろん、冬美もAの気持ちを最優先に考えている。
しかし、家族が仲良くなることを誰よりも願っている冬美は、希望を抱かずにはいられなかった。
「……でも、話さないのは違うよね」
小さくそうつぶやき、冬美は真っ直ぐ炎司を見た。
「今日、雄英の校長先生と相澤先生とAと焦凍、あと夏と話し合いをしたんだ」
そう切り出すと、炎司はほんの少し眉を上げた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
