99.聞いていた ページ6
No Side
「夏、今日は泊まっていく？」
「あーいや、明日予定あるからやめとく」
Aと焦凍と別れ、赤くなった空の下駅までの道を歩きながら、冬美は夏雄の言葉にニヤリとした。
「もしかしてデート？」
「なんでわかるんだよ！？」
「そりゃあお姉ちゃんですから。それなら、夕飯だけでも食べていかない？」
「……食べていきたいけど、今日あいつ帰ってくるんだろ」
途端に表情を暗くした夏雄。
冬美は悲しそうに視線を落とし、「……わかった」と頷いた。
Aと再会してから、夏雄も少し変わった。
ずっと上手く踏み込めていなかった焦凍とも仲良くなり、彼なりに過去を清算しようとしているのを冬美はちゃんとわかっていた。
しかし、それでも変われないところはあるのだろう。
残り続ける父への嫌悪を、冬美は少し心配していた。
行き先の違う電車に乗る夏雄を見送り、冬美も家への道を急いだ。
家に帰ると、玄関には既に大きな靴が置かれていた。
驚いて居間に行くと、父が新聞を読んでいた。
「おかえりなさい。今日は早かったんだね」
「……ああ」
ボソッと一言だけの返事に、冬美は首を傾げる。
新聞から目を離さない様子に、何か気になる記事があったのかな、と思いながら夕飯の支度をしようとしたとき。
「――Aに会ってきたのか」
突然のその言葉。
冬美はバッと振り返り、未だに新聞から視線を上げない父を見た。
「な、なんで……なんでお父さんがそれを……？」
戸惑いで声が震えた。
この後話をしようと思っていたため覚悟をしていたとはいえ不意に与えられた衝撃に、冬美は動揺を隠しきれない。
エンデヴァー――炎司は新聞を閉じ、少し前の記憶を思い出す。
「焦凍と夕飯を食べに帰ったとき、お前たちが話していただろう。Aが雄英にいると」
「聞いてたんだ……」
「……Aは、5歳の頃のままなんだろう」
冬美は手に持っていたエプロンを置き、炎司の向かいに座った。
「……11日に6歳になったって」
「……そうか」
冬美はぎゅうっと両手を強く握り、炎司を見て静かに問いかけた。
「どうしてずっと黙ってたの……？」
「……向き合う覚悟が出来なかった」
「お父さんはAをどう思ってるの？ 昔も今も、お父さんがAをどう思ってるのか全然わかんないよ……」
泣き出しそうな声の冬美に、炎司はポケットから手帳を取り出し、裏表紙を開いて差し出した。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
