97.養子 ページ4
「Aは、父にただならぬトラウマを持っています。ですが、これからの事を考えたときに、せめて義務教育は受けるべきだと思ったんです。そうすると、お父さんと関わる機会がどうしても出来てしまいます」
突然親父の話が出たからか、Aはオレンジジュースを置いて俯いた。
俺は「大丈夫だ」と声をかけてAの手を握った。
「もちろん、戸籍を移す際にもお父さんとコンタクトを取らなくてはいけませんが……でも、今後何かある度にAに怖い思いをさせるよりずっといいと思うんです」
「……それについて、Aさんは？」
「いえ、今初めて話しました」
「……今のお姉さんの話はわかったかい？」
校長先生がAに問いかけると、Aはチラッと姉さんの方を見てから『……ちょっとだけ』と頷いた。
相澤先生はAにもちゃんと理解できるように、内容を噛み砕いて説明した。
Aは話の内容に目を見開き、姉さんをパッと見た。
『わたし、ふゆねえのこどもになるってこと？』
「えーっと、子どもっていうか……私がAの保護者になるってことかな」
『ほごしゃ？』
「……まあ、親みたいなものだね」
その辺りの違いを理解しきれないのは仕方がない。
追々わかるだろう、と、姉さんは微笑んだ。
Aはパッと顔を輝かせた後、『あ』とつぶやいて眉を下げた。
『そしたら、しょうととはいっしょにくらせない……？』
「そのことを相談したくて、今日はお時間をいただいたんです」
「……なるほど」
不安そうなAから視線を移した姉さんは、再び真っ直ぐ先生たちを見た。
さすがはハイスペックの個性を持った校長先生だ。
すぐに姉さんの言いたいことを理解し、目を伏せた。
「Aと焦凍は、お互いが一緒にいることを強く望んでいます。私も、そこは出来るだけ叶えてあげたい。私からのお願いは一つです。焦凍が雄英を卒業するまで、今まで通りAをここに置いていただけないでしょうか」
「……お願いします。授業やインターンを疎かにはしません。だから、Aと一緒にいさせてください」
姉さんと俺が深々と頭を下げたのを見て、夏兄もバッと頭を下げた。
「俺からもお願いします」
『わたしもしょうとといっしょにいたい……！ だから、おねがいします……！』
校長先生と相澤先生は顔を見合わせた後、俺たちに顔を上げるように言った。
恐る恐る顔を上げると、二人は微笑んでいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 521人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
