117.何かが狂っていく ページ24
？Side
「―――A……？」
だれかがよんでる。
ちいさくて、よわよわしいこえ。
でもそのこえにはとってもやさしいかんじがして、わたしはおもいまぶたをもちあげた。
みたことのないてんじょうと、みなれた“にしょく”のかみのけ。
――ああ、しょうとだ。
すぐにそうわかった。
でも、なぜかいつもとちがう。
『……あ、しょ……ゲホッ……』
「無理するな……！ ……ッ、良かった……目が覚めて、ほんとに良かった……ッ！」
のどがぎゅうってなってるかんじがして、うまくはなせない。
そんなわたしのあたまをなんどもなでながら、しょうとはなにかのボタンをおした。
『…………ほんとに、しょうと……？』
ギリギリことばになったかなってくらいのこえ。
でもしょうとはいっかいでききとってくれて、「ああ、そうだ」っておっきくうなずいた。
……でも、でも。
『……ケホッ……しょうと、なんでこんな……おおきいの……？』
「―――え」
しょうとがめをおおきくひらいてかたまった。
まるで、「嘘だろ」っていうみたいに。
そのときガラッとドアがあいて、なんにんもひとがはいってきた。
そのなかにはおとこのひともいて……
『っ……！』
ブワッとあたまにながれる、たくさんのきおく。
ほのお、おゆ、おかあさんのめ、とうやにい、おとうさん。
あつい、あつい、あつい。
わたしはぎゅうっとめをつむって、せなかをまるめてちいさくなった。
「Aちゃん、目が覚めて良かった……！ 少し診察するからね、お布団取るね」
『いやッ……！！』
のばされたおおきなおとこのひとのてに、わたしはあたまがまっしろになった。
いたいのは、あついのはもういやだ。
やめて、たたかないで。
こわいめをしないで。
こないで。
「A、どうした？ どこか痛いのか？」
『……いや、やだ、こわいっ……』
しょうとがこまったようにきいてくれたけど、わたしはポロポロなきながらくびをふることしかできない。
そんなわたしに、しょうとは「……まさか、昔の」とつぶやいた。
「え？」とおとこのひとがしょうとをみる。
しょうとはすこしのあいだわたしをじっとみつめ、ひとつしんこきゅうをしてからいった。
「すみません。混乱してるようなので、少しの間二人にしてもらってもいいですか」
おとなのひとたちはすこしこまってたけど、すぐにどこかへいった。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
