96.会議室 ページ3
手を繋いで楽しそうに歩く女子二人の後ろを、俺と夏兄が話しながらついていく。
「前も思ったけどさ、A、すげぇ明るくなってるな」
「ああ、よく笑うようになっただろ」
「……歳のせいもあるだろうけど、めちゃくちゃかわいい」
「……すっげぇわかる」
顔を見合わせて、お互い吹き出した。
「焦凍、親バカみたいになってるぞ」
「夏兄も人のこと言えねぇぞ」
「俺はただかわいい妹を見守ってるだけだ」
「それを言うなら俺もだ」
少し前までの夏兄は、Aはもちろん俺とも少し距離感を掴みきれてないようだった。
だが、今では軽口を叩き合えるくらいになれた。
これも、Aのおかげだ。
Aが、俺たち姉弟の距離を縮めてくれた。
きっと本人はそんなつもりはなかっただろうが、俺たちは勝手にAに救われていたのだ。
「……やっぱりAはすげぇな」
ぽつりとつぶやいた俺の肩を、夏兄は優しく叩いてくれた。
会議室のドアの前に着くと、みんななんとなく緊張しているようだった。
そういう俺も例外ではない。
各々一つ深呼吸をして、会議室に入った。
長机を挟んでずらりと椅子が並び、既に相澤先生と校長先生が着席していた。
俺たちが入ってくると二人の先生はパッと立ち上がり、窓側の席を指し示しながら言った。
「お越しいただきありがとうございます。どうぞお座りください」
「こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」
こういう真面目な――形式的なやり取りは、俺たちは慣れていない。
Aも俺も夏兄が慌てて頭を下げる中、姉さんだけは落ち着いてそう返した。
やはり小学校でも保護者と面談する機会があるからか、慣れているのだろう。
頼もしい姉に俺たちは少し安心した。
ガチガチな下3人に、校長先生はニコニコとしながら言った。
「そんなに緊張することはないのさ！ もっとリラックスしてくれたまえ！」
言い方は悪いが――校長先生の軽いテンションに、俺たちはホッと息を吐き出した。
相澤先生が出してくれた緑茶を一口飲み、隣のAを見る。
Aにはオレンジジュースが出されたようで、嬉しそうに喉を潤していた。
「さて、早速だが本題に入ろうか。今日は我々に話があるとのことでしたね」
「はい。具体的に言いますと、Aを私の養子にしようと思っているんです」
姉さんの言葉に、先生二人は少し目を見開いていた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
