113.みしらぬおにいさん ページ20
あつさは、いつだってわたしをくるしくさせる。
なつのきおん、できたてのスープ、ほのお。
いつからか、くるしいときはあつさをかんじるようになった。
“どうじょう”からのおとがきこえないように、まどもカーテンもしめる。
だけど、せみのこえはとおくなったのに、“どうじょう”からのおとだけはっきりきこえてくる。
まるで、くるしんでいるしょうとのいきづかいまでわたしにきかせるように。
――ああ、あつくてあつくてしかたがない。
きがついたら、わたしのへやはまっしろにこおっていた。
「……ねえA」
まだ“どうじょう”にいるおとうさんとしょうといがいのみんなでおゆうはんをたべおわり、おさらをさげていたとき。
おかあさんはわたしにこえをかけた。
くびをかしげて『なあに？』とこたえると、おかあさんはちいさなこえでいった。
「……Aは、辛くない？」
わたしはすこしこたえをまよって、くびをふった。
『つらくないよ、ぜんぜん』
「……そう」
それだけいって、おかあさんはおさらをあらいはじめた。
なんだったんだろう。
わたしはもういちどくびをかしげたけど、なにもいわなかった。
「…………ごめんね、A。お母さん、Aのこともう……」
おかあさんは、わたしのことをいちどもみていなかった。
きがついたら、わたしはこうえんにいた。
じめんにペタッとすわっていて、ちいさいいしころがちょっといたい。
だれもいなくて、とおくのくるまのおともきこえない。
たったひとり、しんとしたよるのこうえん。
あまりにもしんとしてるから、すこしだけゾッとした。
そのとき、だれもいなかったはずのブランコがゆれるおとがした。
びっくりしてふりかえると、ひとりのおにいさんがブランコにすわっていた。
『おにいさん、だれ……？』
すこしけいかいしてたちあがり、おにいさんをじっとみる。
おにいさんは、ゆっくりとわたしのほうをむいた。
「……お前、窶れてんな」
やつれる――びょうきなどでやせおとろえること。みずぼらしい。
じしょでよんだから、いみはわかる。
でも、わたしがやつれてる？
きょとんとしてから、わたしはじぶんのぜんしんをみた。
とくにふくがボロボロなわけじゃない。
『わたし、やつれてないよ？』
くびをかしげてそうこたえるわたしに、おにいさんはしんそこあきれたようにためいきをついた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
