107.提案 ページ14
『えへへ、しょうと、くすぐったいよ』
くすぐったそうに身を捩ったA。
焦凍は一つ大きく息をしてから、ひょいっと慣れたように抱き上げた。
「なんでもねぇ。勇気、出して良かったな」
『うん！』
ギュッと首に抱きついたAと優しく微笑む焦凍を見て、炎司は表情を和らげた。
焦凍の髪のはねた部分をちょいちょいと触るAを好きにさせながら、焦凍は父に視線を向けた。
「姉さんから話は聞いたんだろ」
「ああ。そのことだが……」
言いにくそうに視線を泳がせる炎司に、大事な話になるだろうと思った焦凍はAを抱きかかえたまま椅子に座った。
それを見て、炎司も正面に座る。
相澤は、壁の方で遠目から3人を見守っていた。
「……正直、今日は一言も話せずに帰ると思っていた。そうなれば、養子の話も早めに進めようと思っていた」
「……過去形っつーことは」
「ああ。今のAを見て、考えが変わった。……もちろん、お前たちの意思を優先するが」
Aと焦凍それぞれに視線を向け、炎司は言った。
「俺は、Aと――お前たちと向き合っていきたいと思っている。そのために、冬美の養子にはせずに戸籍の変更だけしようと思う」
Aは首を傾げた。
上手く理解が出来ないAに、焦凍は内容を噛み砕いて説明した。
それを見てから、炎司は続ける。
「だが、お前たちはお互いに離れたくないのだろう。俺も、お前たちを無理矢理離すつもりはない。だから、元の話の通り焦凍が卒業するまでは雄英にいさせて、その後はうちに帰ってくることにするのはどうだ」
『しょうとが“そつぎょう”したら、わたしおうちにかえるってこと？』
「そういうことだ」
『ふゆねえのこどもにはならずに？』
「ああ」
Aは頭の中で話を整理し、焦凍を見上げた。
焦凍は真っ直ぐ炎司を見つめている。
「……あの家がAにとって呪いのようなものだってことは、もちろんわかってんだよな」
「……ああ」
「その上で、その提案をしようと？」
「……お前が怒るのもわかる。もちろん、Aが嫌だと思うなら今の話は無かったことにしてくれていい。だが、一度チャンスがほしいんだ」
――Aともう一度向き合うチャンスを。
焦凍はふーっと長く息を吐き、自分の感情を抑えた。
そして、膝の上のAに言う。
「A、どう思う」
Aは少し言葉を探してから、口を開いた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
