106.矛盾の思い ページ13
No Side
「背が少し伸びたな」
『そうかな？ あんまりわかんないや……あっ、でもね、ねるこはそだつって“ほん”にかいてあったよ』
炎司の変わりように最初は戸惑いもあったAだったが、少しの時間で慣れ、今ではずっと炎司に抱き上げられていた。
炎司も最初は接し方に悩んでいたようだったが、少しずつ堅さも無くなり普通に話せるようになっている。
その様子に、相澤と焦凍は微笑んだ。
「心配の必要もなかったな」
「……そうですね」
「なんだ轟、拗ねてるのか」
「…………違います」
「どうだか」
Aとべったりな父に冷ややかな視線を向ける焦凍を見て、相澤はニヤリと笑ってそう言った。
焦凍はボソボソと小さな声で言う。
「Aがトラウマを克服できたのは本当に嬉しいんです。それは嘘じゃないです」
「それ“は”、ねぇ」
「……俺はAみてぇに優しくないから……親父をちゃんと許せる日は、きっと来ないです」
「お前が優しくねぇわけねぇだろうが。でも、それとこれとは別だ。まだ精算しきれてないだけで、Aちゃんは優しい、お前は優しくねぇって話じゃねぇ」
「……そうですかね」
納得しきれてない焦凍は、眩しそうに目を細めてAを見つめた。
相澤は「まだまだガキだな」と思いながら、焦凍から視線を外してAたちを見た。
「焦凍とは仲良くやってるそうだな」
『うんっ！ しょうとね、すっごくやさしいんだよ！』
「そうか」
『あとねー、かつきおにいさんともなかよしなんだよ！』
「爆豪か？ 爆豪が子どもと仲良し……？」
『すっごくやさしいんだよ！』
「爆豪が優しい……！？」
仲良く談笑する二人。
焦凍は思わず目を逸らした。
この様子なら、戸籍を移す必要はないだろう。
そして――――俺と暮らす必要も。
「……離れることになるのか」
ぽつりと溢した言葉が、想像以上に自分に刺さったのを感じた。
そのとき、足にドンッと何かが当たった。
視線を落とすと、Aが足に抱きついていた。
『しょうと！』
にこにことするAに、焦凍は思考をやめて首を傾げた。
Aは心底嬉しそうに言った。
『わたし、きょうおとうさんとあってよかった！』
ああ、嫌だ。
離れたくない。
俺のところにいてほしい。
会うよう背中を押したのは自分なのに、そんなことを思ってしまう。
自分の思いを隠すように、焦凍はAを抱きしめた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
