105.やっと会えた ページ12
親父と相澤先生は、もう椅子に座って俺たちを待っていた。
ドアを開けた瞬間、二人の視線が俺たちに向く。
親父はガタッと立ち上がり、俺の後ろの小さな影を見つけた。
親父は何度か口を開閉させ、掛ける言葉を探しているようだった。
Aは未だに俺の足にしがみついて顔を隠している。
「A」
『っ……』
俺が声を掛けると、Aは一度ビクッと身体を跳ねさせてから、恐る恐る顔を出した。
親父と、Aの目が合う。
「――――A」
親父は、聞いたこともないような声でそうつぶやいた。
いつもは鋭い瞳が、今にも泣きそうに揺らいでいる。
そんなアイツを、俺は見たことがなかった。
十数秒間そのまま見つめ合っていた二人。
Aはゆっくりと俺の後ろから出ていき、まだ震える手を俺から離した。
親父は俺の方を一度見て、Aに近づくべきか迷っているようだ。
少しの間挙動不審だった親父だが、ゆっくりと近づいてくるAを見て、その場にしゃがんだ。
Aのペースに合わせてやったのだろう。
威圧感のある体格であることも気にしたのか、しゃがんで目線を合わせていることに俺は少なからず驚いた。
Aも驚いたようで、一度俺の方を振り返る。
俺が頷くと、Aは親父に目線を戻した。
そして――
「！」
勢いよく親父の腕に飛び込んだ。
余程驚いたのか、親父はワタワタと挙動不審になる。
『……おとうさん』
Aがそう言うと、親父はピタッと動きを止め――
「……A、ありがとう」
優しく、優しく、そう言った。
来てくれてありがとう。
「おとうさん」と呼んでくれてありがとう。
許してくれて、ありがとう。
一言に込めたそんな思いが、俺たちにも伝わってきた。
ぎゅうっと抱きつくAを、親父も抱きしめ返した。
――思わず、目頭に熱が籠もった。
「A、本当に……すまなかった」
『……もういいよ。わたし、もうわすれちゃったから』
「……そうか」
二人の頬にも、雫が伝っていた。
『…………おとうさん』
「なんだ」
『ちょっとくるしい』
「！？ わ、悪い」
親父の馬鹿力は、Aには強すぎたようだった。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
