104.来たる当日 ページ11
焦凍Side
この数日、Aはどこか緊張した面持ちで日々を過ごしていた。
その理由はわかっている。
親父と会うからだ。
Aは俺がいるから大丈夫、と言っていたが、それでも怖いものは怖いんだろう。
やっぱりやめよう、と言いたかったが、Aがちゃんと考えて決めたことだ。
俺はただ、Aが出来るだけ怖い思いをしないように努力するだけ。
そうしてやって来た当日。
朝からAは表情が少し暗く、ご飯もあまり進んでいなかった。
心配で仕方がなかったが、そこは我慢だと自分に言い聞かせた。
「……じゃあA、そろそろ行くか」
前回の姉さんと夏兄のときのように、今回も親父が雄英に来ることになっている。
知っている人が一人でも多い方が安心するだろうからと、相澤先生も同席すると言ってくれた。
それをAに伝えたところ、先生の予想通りホッとした顔をしていた。
Aはキュッと唇を結んだまま立ち上がり、俺の手を力いっぱい握って頷いた。
会議室までの道中、Aは視線を落として歩いていた。
俺の手にしがみつくようにギュッと力を込め、見るからに緊張している。
「……A、怖いか」
『…………だいじょうぶ』
……明らかに大丈夫ではなさそう。
俺は一度立ち止まり、Aの前にしゃがんで目を合わせた。
「今からやめてもいいんだぞ。Aの気持ちが一番大事だ。また今度にも出来るし、会わなくったって誰も怒ったりしない」
『……うん、でも……ふゆねえとなつにいも、むかしよりすごくやさしくなってたから……おとうさんも、なかなおりできるかもしれないから……』
「……そうだな、そうかもしれねぇ。でも、Aが無理してるのは、俺も見たくねぇ」
『……じゃあ、いっかいあってみて、それでもこわかったら……すぐにかえってもいい？』
「ああ、もちろんだ。……Aは強いな」
わしゃわしゃと頭を撫でてやると、Aは弱々しく笑った。
無理矢理だったとしても、笑みが溢れたことに俺は安堵した。
会議室の前にやってくると、Aはこれまでに無いくらい不安そうな顔をしていた。
今にも泣き出しそうな顔に、俺も苦しくなる。
Aに「俺の後ろに隠れててもいいぞ」と言うと、Aは手を繋いだまま俺の足にぎゅうっとしがみついた。
それを確認してから、俺はドアを開いた。
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作者名：月木あや | 作成日時：2024年2月3日 17時
