会いたい人は...５ (ページ9)

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K ページ9

朝、Aからの電話が入った。

最近、Aの電話をすぐにとる事が出来ない。

俺に後ろめたい事があるせいだと思う。

昨日、電話が来たのはわかっていたが、折り返す事もしなかった。

いつから、そんな事が普通になったんだろう。

電話に出たとしても、言い訳から始まる俺の電話。
それでも、Aは決して怒らず、決まって俺を許し、何事も無かったように振る舞う。

何で怒らない？
何で、何も言わない？
何も思わないのか？

自分が酷い事をしてるのを棚にあげて、それにイラつく自分がいた。

来週末には、帰国するA。

その時、俺達は、前のような関係に戻れるのか

Aと別れる事も考えない訳じゃなかった。

だけど、結局"Aがいない"なんて、考えられないと思ってしまう。

自分がAを裏切っておきながら、
俺から別れる事も出来ない。

俺一人で、もがいてるような気がしてた。

ずっと想い続けたAと、気持ちが通じて、本当に幸せだった。

イタリアに行くと告げられた時も、
俺達なら何の問題もないと思ったんだ。

イタリアに行ってから、

Aは、今まで見たこともないような輝きを見せ始めた。

A本来の魅力が開花したかのように
どんどん綺麗になっていくA

Aの全てが順調に回り始めたように見えた。

そんなAの変化を俺は素直に喜べなかった。

"俺だけの"Aだった。

"俺がいなければ生きていけなかった"Aが、A自身で輝き始めた。

言い知れない寂しさと、Aの周りの人への嫉妬に苦しむようになった。

Aが、好き過ぎておかしくなりそうだった。

それでも、研修の一年が終わりに近づくにつれ、俺の気持ちも落ち着いてきた。

もう少しで、俺の元に帰ってくる。
それまでの辛抱だと言い聞かせた。

「研修の延長をする」

この言葉を聞いて、俺の気持ちが折れたんだ。

この時、俺が正直にAに話せば良かったんだと思う。

だけど、言えなかった。

Aに情けない男と思われる事が怖かった。

相談されなかった事も俺を頑なにした。

心に距離ができている事に気がついてしまった。