【d!企画】汝は人狼なりや？【前編】 (ページ3)

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【sn】嵌めた首輪と外した轡、飼って放して行く先はページ3

医師のしんぺいさんと、昔彼に拾われた私は、もう十年ほど一緒にいる。彼の気の向くままに流れ旅を続ける私達は、片手の指で足るか足らないかといった年数をとある小さな村で過ごしていた。村人たちと細やかな交流をする日々を、すぐに出て行くつもりだったその場所をどちらともなく気に入ってしまったのだ。

「……人狼の、仕業やろうねえ」

神を偽った雑面の下で、しんぺいさんが鋭く舌を打つ。彼の前には無惨にも喉元を食い千切られた、昨日まで朗らかに笑っていた村人の死体が横たえられていた。
一体いつから紛れ込んでいたのだろうか、人狼はこの数日間、夜の間に一人ずつ村人を食い殺していた。生き延びている全員が顔を突き合わせて対策を話し合った今日、誰からともなく、投票によって疑わしい一人を処刑する制度が発案される頃には、既に夕闇が辺りを覆い隠し始めていた。

「ま、せやけど敵は人狼だけとは限らへんで」
「……どういうことや」
「吸血鬼やら妖狐やら、村人とも人狼とも違う陣営の奴らもおんねん。何れ脅威にならんとも限らん、……生き残るべきは、ほんまもんの人間だけや」

鋭く目を光らせた小説家の男性の言葉を最後に、各々が自身の家へと足を向ける。
同じ家に戻った私としんぺいさんは、一先ず誰が怪しいかを話し合った。しかし伝承のように占い師や霊媒師といった存在が名乗り出た訳でもない現状で話せることなどそう多くはないわけで、数十分もすれば考え疲れてしまう。

「……お茶でも淹れよか、喉乾いたわ」
「ですね」

互いに苦笑を向けあって、揃って椅子から立ち上がる。
その瞬間、彼の背後にあった窓のガラスが大きな音を立てて砕け散った。私の視界はすぐにそちらを振り向いたしんぺいさんの背に遮られ、彼のものでは無い、獣のような唸り声が耳に届く。

「逃げろ！！」

横へ突き飛ばされ、椅子や机にぶつかりながら床に倒れ込む。視界の端でしんぺいさんが人影に飛びかかられたのを捉えて必死に起き上がると、小説家の男が彼の腹の上に跨り、ぎらぎらとその目を光らせていた。

「ッしんぺいさん！」
「はよ逃げえ！！あ、ぐ……ッ」

私を怒鳴りつけるしんぺいさんの顔を男の手が掴み、床に叩きつける。鈍い音と共に彼の手から力が抜けて、それを見計らったかのように、ぐわ、と男の口が開く。白く鋭く尖った牙が、剥き出しの喉元を正確に狙っていた。

焦って見渡した手元に、来客用の重い灰皿が転がっていたことだけは、しっかりと覚えている。