king ページ13
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“……”
『って、え…!』
恥ずかしくて、口に手を当てる。
私、何言ってるんだろう…!
“そうなんだ、知らなかったー…”
“はは、その人が羨ましいなぁ”
でも山田くんは、ただ笑って、遠い目をしていた。
『……』
…あれ
“…ん、どしたの?”
突然固まった私を、心配そうに伺う。
『あっ、…あんまり、普通だったから』
てっきり、びっくりされるかと思ったから。
こんなことさらっと言うなんて、引かれるかななんて、思ったから。
Aちゃんにも好きな人とかいるんだ
なんて言われる覚悟はできていた。
“え、いやもちろん、びっくりだよ。でも、好きな人くらいいてもおかしくないし、…なんかちょっと、”
“親近感湧いたよ?”
綺麗な顔を、崩さずに笑みを浮かべる。
こんな大雨の中でも、一点だけが輝いて見えた。
『私は、…こんなことポロっと言っちゃって、なんかちょっと…、』
“……”
“なんで?いいことじゃん!”
『えっ……?』
山田くんは、むしろこっちにびっくりしてるようだった。
“思いを言葉にできるって、素敵だと思う。相手にも伝わるしさ”
“てか、告白ってまさにそうじゃない?俺、何回こんなことしてるのよ”
『……』
“伝えちゃえ、Aちゃんも”
そう言って、私に自分のハンカチを渡し、そばの信号を渡っていった。
たまに廊下で見かける、男らしい背中が、少し曲がっているように感じた。
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『伝えちゃえ…』
保育園に着くと、
待ちくたびれた様子のひろが、抱きついてきた。
…これも、一種の“伝える”ってことなのかな、なんて考えた。
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作者名:ティパ二 | 作成日時:2019年6月23日 23時