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口にはしないが、咄嗟の行動。彼は多分保健室の場所を知らない。不審に思われない程度に案内しようとした矢先だった。
途中までいけると思ったんだけどなぁ。やっぱりダメだったらしい。国ちゃんが骨を出したとき同様に、後ろに倒れてしまう。
「ギャアッ! 抱っこしたまま倒れないで」
「あーもう、保健室行きが増えちまったよ」
記憶喪失の影響の目眩……の、ようなもののはず。でも今度は気絶までしちゃった。更には追い打ちで二限開始の鐘まで鳴ってしまう。でもまあ最優先事項はイズの怪我。代わりに私が運ぶよ。私なら、バスケ部員のテーピング経験もあるしね。
そこの雨明くんは、身長のある佐野か泥田が運んで。運ばない方は先に教室戻ってて。次の授業は化け学、つまり秦中だ。遅れるって伝言よろしく。
一通り指示してから彼女を抱き上げる。本日二人目。こんな一時間ちょっとで女の子ふたり抱えることってあんまりなくね?
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大阪の実家を訪れた際。泥田の泥化と豆のスライム変化に驚いて、しばらく母親の膝で休んでいた雨明くんだ。保健室のベッドに寝かせ、イズの手当が終わっても、彼は目を覚まさない。というか唸っている。
妖怪学校の一室に一人残すのは心配だったが、ひとまず教室へ帰る。授業が終わってから再びこの場を訪れた。意識は戻っていなかった。
現場にいた面々は当然として、今度はクラスの何人かも一緒だ。紅子のほか、授業より記憶喪失を何とかしようと言った秋雨。髑髏の姿に倒れたことを心配していた国ちゃん、セーラーに無反応であったことに誰よりもショックを受けたモモとか。
「晴明。…………おーい、晴明」
「あれ……、俺……」
「また倒れたんだよ」
周りが呼びかけること少し。やっと目を覚ます。
はぁ、とりあえずは安心だね。特に秋雨とモモはホロりと涙までこぼした。猫なのにわんわん泣いている。
「倒れたって聞いたときはびっくりしたぞ〜!」
「うおっ、なんや……心配してくれるんやな」
「当たり前だろ〜〜」
晴明くんらしき者に擦り寄る秋雨。そんなに懐いてたんだって思うくらい。
ここは窓から遠いけど、外は今日も天気が良い。お日様が照りつける。セミの鳴き声って一度始まると中々静まらないよね。なんとなくみんなの口が閉じたとき、雨明くんは切り出す。偵察は諦めて、ストレートに訊ねることに変更したらしい。
「なあ。お前らにとって晴……記憶喪失になる前の俺は、いい教師やった?」
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時