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その後も授業はそっちのけ。
呑気に飯食ってる場合じゃないと言ってきた狢には無言でビンタをしておいた。フルパワーでお見舞いした場合、あらゆる壁を突き破るのは避けられない。陸階から真っ逆さまである。
だから個人的には『パチン』程度の力だったが思ったより吹っ飛んだ。教室の壁にはやっぱり大穴が開き、以前酔った神酒に瞬殺された晴明くんみたいになった。うるさい、天変地異より朝ごはんの方が大事だろ。
「やりすぎ」
「え? ちゃんと加減したって」
「自分の怪力さを見誤りすぎだ」
佐野に言われ、狢を叩いた手のひらに視線を落とす。うーん…………そんな、強かったか? 次回は『ぺち』ぐらいまで抑えたいところ。
ふと雨明くんを見てみると……。彼は私と目が合うなり、凄い勢いで逸らした。あら、怖がらせちゃったみたいだ。
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一限終了の鐘が鳴る。晴明くんの記憶喪失をどうするかの話し合いは一旦ここで終わりにし、各々休憩に入る。次の授業の準備をしたり、テキストを忘れた者は隣のクラスに借りに行ったり。
私も、トイレへ歯磨きをしに行くために席を立つ。いやー……食べた後は磨かないと落ち着かないんだわ。その習慣がついてからは、本当に口の中が気持ち悪い。
ついでに用も足して、教室に戻ろうとしたら。ちょうど階段の方から悲鳴が聞こえてきた。……なんだ? 声は近い。そっちを見れば、階段の下では
短いスカートから伸びるのは色白の美脚。その片方、左足の、くるぶしソックスより上の部分が少し赤い。素人目だが腫れもある。私が事情を聞こうとしたら、男子トイレから佐野と豆、泥田、雨明くんの四人も駆けつけた。
「小泉さんどうしたの」
「あぁ、ちょっと階段踏み外しちゃってさ。足……ひねったみたいだ」
そう言えば、雨明くんは血相を変える。あれ、妖怪に少し慣れてきたのかな。ろくろ首の彼女にずいっと近寄って肩に触れる。
私が今朝、国ちゃんに行ったように抱き上げようとした……が。イズは突然のことに驚いて更に首を伸ばす。幽霊でも見たような悲鳴をあげて「何すんだ変態教師!」と彼の首を絞めあげた。
「ぐえぇ、何って……保健室に連れてくんやんけ。教師やったら、こんくらいするモンちゃうんか?」
雨明くんはイズを軽々持ち上げる。体育祭で……佐野が体育倉庫で怪我をした際、晴明くんが彼を衝動的に抱えて運んだと聞いた。
こういうところは双子だね。
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時