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椎名が寝坊だということは、直接聞かずともクラスメイト全員が悟っているだろうけど。わざわざ言うほど野暮じゃない。
ドッペルも、自分の正体がバレないことの方が重要らしい。歌川さんの言い分を聞いて「理由はわかったで。はよ座り」。どうやらコンビニのことも抜け落ちているようだ。ま、椎名に構わない理由は他にもあるかも。
「晴明先生、機嫌悪いですね。セーラー足りてないのでしょうか」
「みんな最初に思うことは同じなんだな」
入道たちが、晴明は記憶喪失らしいことを歌川さんに教える横で、椎名は俺たち……正確にはドッペルに近づいてきた。五月の連休で顔を合わせたとはいえ、また先程スマホを介して口を利いたとはいえ。
角がある、本来の姿の椎名を見るのはこいつは初めて。顔色がどんどん悪くなる。
「おはよう晴明くん、さっきぶり。……あ、記憶ないからわかんないのか」
「ウッ」
「来るのが遅い」
「え〜……？ 起床して20分後にここまで準備して登校できたら上出来でしょ。佐野はできるの？ 自分ができないことを他に強要するものじゃないよ」
ズンッ
椎名と話していたら。席につくため、ドッペルのいる教卓の前を通ろうとした歌川さんから骨が出た。コンビニで椎名と出会うまでは懸命に走り、それで疲れていたとのこと。
歌川さんは人型だ。けれど、気を抜くと本来の餓者髑髏の姿に戻ってしまう。って、……ん？ 視界の端でドッペルの体が傾く。そのまま倒れてしまった。あ、そういや兄の方は妖怪が苦手なんだった。
「だ……、大丈夫……。ちょっと、記憶喪失の影響で目眩が……。まぁ気にせず授業しよか」
「授業よりも晴明の記憶を戻す方法を考えようぜ」
便利な設定だなぁ。
そう思った俺にしか聞こえない声量で椎名が囁く。「ただの神社の息子が授業できるわけないでしょ」。たしかに。秋雨の発言はある意味ナイスアシストだったな。まあ、ドッペル個人には正解じゃないが。
晴明の記憶を戻すため、話し合いが始まってしまった。やっぱりセーラーじゃないか？ そんなことを誰かが言うと、名案を思いついたというように桃山さんが立ち上がる。
【だったら自分にいい考えがあるぞ。しばし待たれよ小童共！】
「あっ、オイ！」
「小童って。同い年だろ……」
咄嗟の秋雨の声には応じず、教室を出ていってしまう。
一体どこへ……？
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月10日 14時
