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▼佐野
あいつ……案を出すだけ出して、後はこっちに丸投げかよ。通話が切れる直前……なんか、歌川さんの声が聞こえた気がする。そういえば、歌川さんは椎名の後ろの席だが今朝はまだ見かけていないような……？
はぁ。ため息を吐きながらスマホは制服のポケットへしまう。まだ手を合わせて、こっちの反応を窺っているドッペルをジロリ見る。記憶喪失、か。
「まあ……なんとかなるだろ」
諸々思うことはあるが、とりあえず全部飲み込んで。 教室へ戻るべく、方向転換して扉を開けた。
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代表して俺が説明する。廊下で少し話してみた結果、なんか色々あって晴明は記憶喪失になってしまったそうな。
みんなは驚いていた。そりゃそうか。普段は柳田とかのせいで爆散しても、いつの間にか無傷で復活している。その晴明の記憶がとんでしまったのだから何があったか気になるかは自然な発想。
「いや……そもそも記憶喪失で、なんで性格まで変わるのさ」
「な……なんか色々あって、性格や言葉遣いも変わったんだよ」
「『なんか色々』は万能だな」
さすが入道。目ざとい。眼の妖怪なだけある。
ちょっと気になるところはありつつ、でも晴明だったら。なんか色々あってもおかしくないかと、みんな笑ってくれた。ふう……この場は乗り切れたか？ まず黙っててもらったドッペルを見てみると、なんだか顔色が悪い。
妖怪にビビってるのか。それとも、なんか色々で片付けられる晴明を不憫に思っているのか。そこまで考えたところで、ドッペルが閉めたはずの教室の扉がガラッと開いた。
「お、十秒ジャスト」
「椎名……と、歌川ちゃん！ えっ、どういう状況？」
何故か歌川さんを抱えて現れたのは、ついさっき通話してた時点では多分坂の下のコンビニにいたと思われる椎名。相変わらずの瞬足……いや、走ってはいないか。本人は風に乗ってるって前に言ってたし。
泥田の質問に、椎名は「国ちゃんが遅刻しないための救済措置」。難しい言葉を使うから泥田は首を傾げた。おい……。
歌川さんは椎名に降ろしてもらう。上履きに違和感があったのか、踵を順番に触ってから遅れた理由を口にした。
「カツアゲされている猫を助けたら、遅くなっちゃって……。その道中でAちゃんを見かけて、一緒に来たの」
「大変だったな」
「なんでい。オレの嘘は信じなかったくせに」
「今、嘘って言ったな？」
「しまった！！」
秋雨の嘘は多分みんな分かってる。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月10日 14時
