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見た目は晴明くんだが、どこか参組生徒が知る彼では無い。まあ……別人だから、当然と言えば当然なんだけど。
リスク背負うくらいなら無理して演じるのやめようよ、記憶喪失ってことにしようぜ。そしたら雨明くんの言葉遣い諸々も誤魔化せる。
「細かい設定は任せた。もう切るよ」
『あっ……ちょ、椎名どこまで来た？』
「え。今、は「いらっしゃいませー」…………」
『コンビニ寄ってんじゃねーよ』
だって朝ごはんまだだし、昼もどうせ購買だし。好きであんなサバイバル地帯に行ってんじゃない。五分ちょっとで学校に行く準備を済ませて外にいるんだから偉いでしょうが。
話しながら朝と昼用のパンと間食用のお菓子、いつも飲むやつを妖術でレジまで持っていく。説明してる間に用は済ませた。はいはい、今度こそ行きますよー。でも雨明くんに授業なんか出来るわけないよな。だから急ぎはしな…………あ。
『どうした？』
「目、合っちゃった」
『誰と？』
「国ちゃん」
コンビニを出てすぐのことだった。視界の左端から走ってきたのはクラス委員の国ちゃんだ。しっかり者の彼女が遅刻なんて珍しい。国ちゃんは私に気づくと、こちらに方向転換。今はもう目の前にいた。
なんて言われるかは決まってる。「こんなところで何してるの！？ 起きれたときくらい早く行かないと」だ。手首の少し上を掴まれてしまう。振りほどけるが、国ちゃんの手を乱暴に扱うわけにはいかない。とりあえず佐野との電話は終わりにする。
「急いだところで遅刻じゃん。ゆっくり行こうって」
「いいえ、諦めるのはまだ早いわ。授業開始して十分以内に教室に入れば欠席扱いにはならないんだから」
「そうなの？」
「Aちゃんなら、下駄箱を通りつつ教室まで一分もかからないでしょ？ お願いっ！ わたし、どうしても間に合いたいの！」
現在の時刻。9時7……8分になった。言われたとおり、そんなのわけが無い。
頭が良い、しっかり者のクラス委員長。そんな国ちゃんが頑張るのは……。私は彼女の恋を応援している。死んでも死にきれなかったことを知っちゃったらさぁ。……はぁ、分かったって。
じゃあ、はい。私の鞄を渡す。それを胸に抱えた彼女の肩と膝の裏に腕を差し入れて持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこ。
「国ちゃん、私のこと舐めすぎだよ？ 十秒あれば充分だから」
「えっ……さすがに、そこまで急がなくても」
心配しなくても大丈夫。道中は妖術で安全だ。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月10日 14時
