179 ※回想・座敷と椎名 ページ29
▼座敷
あいつは自分のことを話さない。こっちから訊けば教えてはくれるけど、なんとなくぼやけている。やはり本質は知られたくないのだろう。
百鬼学園に入学して、同じクラスになった。苗字は私が座敷で、Aは椎名。席も近いこともあって仲良くなるまで時間はかからなかった。
私たちはどちらも基本はマイペースだ。なのに、居心地がよくて話も合う。共にいるのは嫌ではなかった……それでも。Aがどんな奴か知ってきたのは、大型連休も終わってからだ。
『椎名さん、弐年生が呼んでるよ』
『？ はーい』
授業合間の十分休み。そのとき、鐘が鳴ってからそんなに時間は経っていなかったと思う。クラスメイトがAに教えていた。本人は返事をすると、教室の外に立つ複数人の方へ。知り合いにしてはゴツい。
クラスでのAの印象というのは当時からよかった。居眠りと遅刻は既に周知されていたけれど、話してみれば良い奴だし。
友達には困らなさそうなのに、昼休みになると決まって私のところに来ていた。一度だけ聞いてみたが「紅子の傍が一番楽だから？」なんて言う。……そういえば、このクラスに元々の知り合いはいないのだろうか。
『A』
『ん、何？』
話は終わり、席に戻ろうとする彼女を呼び止める。
『お前は、中学の友達なんかはクラスに居ないのか？』
『いないよ』
『別のクラスなのか』
『それも違う』
このとき初めて、Aは自分とタメではないことを知った。ま……人間と違って妖怪の学校は、100歳超えてから入学する奴もいる。珍しい話じゃない。長生きである代わりに酒が飲める歳になっても、精神年齢が実際より幼く見える奴もよく見かける。
「在学中は校則で禁酒だけどね」と言われたところで鐘が鳴った。キリが良かろうが悪かろうがAは席に今度こそ戻る。…………。言われなきゃ、きっと私はずっと気づかなかっただろう。
『中学まではね、年相応に通ってたよ。でもそれから色々あって学校どころじゃなくてさ。もう別に行かなくてもいいかなって思ってたんだけど、周りから形だけでも出ておけって言われて入学した感じ』
『形……？』
『遅刻しようが居眠りしようが、留年しなければいいの』
その日の昼休み、私は初めて踏み込んだことを訊ねた。Aは嫌な顔をしない。……が、こっちが訊かないとそれ以上はやはり言わず。
だが……最近は。晴明に出会ってからは、それが変わり始めている。
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月10日 14時
