174# 熟考 ページ24
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女子たちが戻ってきたら、私も腰をあげる。予め準備をしておいた着替えやシャンプーなどを持って入れ替わるように風呂へ向かう。
その際、気になることについては言わない。理由は自分一人でも特に直接的な害は何も無かったから。それ以外は私にとっては煩わしいものであるが、他は気づいてなさそうだし怖いものは知らない方がいい。
さすがに風呂にまでそれは無かった。ある方が問題だよ。頭を洗ったら、次は体。ふと、一糸まとわぬ自分の姿を見下ろした。泡をつけた手で傷をなぞる。ちなみに痛みはない。これは最近のものでは無いから。
「女の傷は目立つよね……ぐらいだったら、まだ良かったのに」
腹に傷。それは本当。いつもどおり、嘘は言ってない。そのことを知った者はどう想像しただろう。大抵は掠ったみたいな切り傷のようなものを浮かべたか。だが残念、実際はそんな可愛いものでは無い。
私の片手におさまらない、なんて知ったらどういう顔をするんだろう。指差して「これ」と言わずとも見れば分かる。左胸から腰までザックリやられたし。ワンピースタイプの水着すら人前で着れないよ。
明らかな殺意の痕。今も『そのとき』は脳裏に刻まれている。
「それだけのことをしたから、いじめも当然ってこと?」
ここには私一人だけ。他に影は無い。今のは、私の心に棲む鬼の部分に訊ねたんだ。
全身を洗い終えたらタオルで水気を拭き取る。一応「女の子」を理由に今入らせてもらってるから、長湯すると変に思われるしね。
……ソレが理由なら頷いてしまうかもしれない。けれど、視点が違えば抗議ものだ。あの頃は、私は、彼女は。過去も何も知らないだろ。魂がそうだから、なんて言われたらいくら神様でもぶん殴る。
「あの子は関係なかった。……いいの? こんなこと許されんの? まあ、許されるんだろうね。魂は同じだし」
考えることが多くて疲れる。あぁもう、苛苛してきた。でも顔には出さない。心配されたって話す気は無い。100歩譲って佐野くらいだ。
彼らはかつての私、織部Aの生を狂わせた。たしかに命を捨てたけど、終わる前に過去の業を思い出させて今は椎名Aだ。とても面倒くさい。奴らは執念深くて嫌だ。妖怪の緩さを見習え。
「まったく……何回死ねばいいんだよ」
報いは受けたはず。この傷なら間違いなく致命傷だった。
でもまだ、償いが足りないらしい。
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■旧姓
織部は緑色のひとつ
椎の葉も、碧色も、緑なので
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時