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あ。もうひとつ、聞くの忘れてた。
自分で校内には間違いなく入ってないし、この教室まで歩いてない。今回は誰が運んでくれたんだろ。お礼言わなきゃ。
「最初はいつもみたいに佐野か泥田の流れだったが、最終的に運んだのは入道だ」
「……へー。何があってそうなったの?」
「崖登りで佐野は豆、泥田も私を背負って自力で登ったんだ。これに対して入道は柳田に乗ってクリアしたからってな。全然疲れてないのと、クラス委員として……なんて言ってたぞ」
…………、へえ。
佐野はまだしも泥田は気味悪がっただろう。疲労が蓄積されているとはいえ、入道に気遣われるなんて……暦は夏だが、明日は雪が降るかもしれない。本人に言ったら怒られそう。
だが校内じゃなかっただけでも万歳だ。モモの惚れぐすりの件で朝からドッと疲れた日も、彼が教室まで運んでくれたから。翌日、まさかの佐野を狙う女子たちの次は入道を狙う女子たちに呼び出されてしまう。
もうなんか、メッセージアプリの一言欄に『恋愛興味無いです』とか設定しようかなまで考えたもん。……だけど、それはそれでモテるアピールか? なんて誤解を産みそうで結局しなかった。
「うーん……」
「モモ? 俯いてどうしたの?」
「あ……えっと、Aちゃんは佐野くんや泥田くんと去年から同じクラスで仲も良いから分かるんだけど……。入道くんも当たり前のように横で抱っこするんだなぁって」
それには思い当たる節がある。みんなが知らない入道との関係を差し引いても、というか……誰に限らず、私を運んだことある全員に共通することがある。いや、ね。記憶にはないんだけどさ。
運ぶならおんぶでもいいじゃん。きっと誰もが一度は思ったはず。しかし、おんぶは駄目。私、寝ぼけて相手の首絞めるときがあるんだって。
しかも、起きないときは本当に起きない。それは、うん……ここにいるみんな覚えがあると思うけれども。……ま、そういうわけで周りは前に抱えるようになった。そのせいで定期的に噂になるんだが。
「強制的に起きるには大音量のアラームか、設定した時刻になると電気が流れるブレスレットを就寝前に装着したり? 家族の声なら一回で起きれるんだけど」
「寮生活では致命的ね……」
「うん。……あ、」
入道だ。秋雨と狢も、いつものトリオを見つける。
礼を言おうと思っていた相手と目線がかち合った。
「お世話になりました、ありがとね」
「ん。どういたしまして」
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時