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泥田たちが着いてすぐに晴明もゴール。……なぜ、教師であるはずの彼は登らされていたのだろう。それは本人も疑問であり、割と早い段階で秦中へ訊いていた。返事は「なんとなく」。答えになっていない。
参組の生徒たちは己や誰かの力を頼ってなんとか乗り越えようとする。テストと言われたらやるしかないからだ。みんなが頑張っているのを見て、晴明は崖の上にセーラー服がいっぱいある妄想をして登りきる。
「到着! ……って、キャアアァァァッ!」
苦という苦は一切なく、先にひとりで崖の上に着いていたはずの女子生徒。
椎名Aが体を横にして目を閉じている。まるで始業式の日のような、女子より女子力のある悲鳴に佐野と泥田は肩を揺らした。
「ねっ、熱中症!?」
「まあ……日当たり的にそうなってもおかしくないが、多分寝てるだけだろう」
「登る前から怪しかったけど。にしても場所考えろよ……」
「んー……みんなが来るまでまだ時間ありそうだな。日陰に移動させるか」
よいしょ、と。泥田が、横たわるAの首から肩そして膝の裏に手を入れて持ち上げた。当人はこんなことになっているとも知らずに、すうすう。規則正しい寝息を立てている。
これは余談だが……寝ているAをいわゆるお姫様抱っこしたことのある男子は、参組の中でも少なくない。佐野や泥田はその中でも飛び抜けるため慣れている。入道も、柳田の惚れぐすり事件の後でそうして教室へ連れてきた。彼女の体質を昔から知る者も、おそらくあるだろう。
友達の衝撃的な姿を見てしまい余裕がなかった面々だが、ようやく周りが見えてきた。後ろは崖、前にあったのは……
「学校?」
「な……、なんじゃコリャ……!!」
パイロンと鎖で囲われ、関係者以外立ち入り禁止の表示。手入れがされておらず草が生えまくっている。……それらの奥には参階建ての、自分たちが知っている校舎とよく似た建物があった。
声に出せど、返事は来ない。晴明に訊いても同じだった。林間学校は秦中を中心に弐年の教師全員が指導に参加しているが、彼はここにくるのは初めてだと言う。佐野は……退魔の力が発動したら困るから、先に行った壱組弐組のときは不参加なのかと個人的に結論づける。
全員が登り終えたら説明があるだろ。そういうことにし、とりあえず泥田はAを大きな木の影に座らせる。座敷は日陰を求めるついでに彼女の隣へ腰を下ろした。肩に乗る体重に嫌な顔はしない。
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時