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本音を言ってもいいならば、私は秦中を好きでは無い。今はだいぶ減ったが、主に生徒指導の面で。とにかくうるさかったんだもん。一年以上もの間突っかかられたのをすぐに許す気にはなれない。
だが、個人の点では評価している。人柄などは彼の妻である荊棘ちゃんに聞いているから。それもあり、女性に対する接し方は晴明や凜太郎より断然分かっているだろう。
自分の体を見られたくないと伝えたとき、分かり易く顔に出る奴では困るのだ。秦中には子どももいる、異性の体を気遣える奴だと思う。まあ、彼を選んだのはそれだけが理由じゃない。荊棘ちゃんも、百鬼学園の元教師だから。
現在、この学園に女性教諭はいない。常駐していない保健医も男だ。私に限らず、悩みを抱える女性は多いと思うのに。どうしても自分じゃどうにも出来ないとき、私は荊棘ちゃんを頼る。『知っている』のはそれが理由。ま、上に話も通しやすいし。
「おい」
「？ ……あ、今日は来れたんだね」
「お前が来る前からいたよ。なーんか、表情硬かったから声かけなかったんだけど……大丈夫なの？」
「朱鷺に心配されるとか。そんなにやばかった？」
それは、いつもは私が君に言っていることだった。彼は続ける。自分も込みで個人のことばかりの頼りない兄貴たちだけど、それでも近くにいる俺には声をかけてほしいって。実際、力になれるかは別だけど。
『かつての私』は自分が我慢すればいい。そういう心持ちだった自覚がある。一番ダメだって、マミーに言われた。嫌なことまで従おうとしないでいいと。髪を染めたかったら染めればいいし、眠たかったら寝ればいい。嫌なら諦めるんじゃなく、避けるために押し通せって。
「心配しなくても……私、朱鷺くんのこと結構好きだし信用してるよ」
「お、おう……」
「まあ、好きの度合いなら墨くんの方が上だけど」
「それ言う必要あった？」
うはは。
ちなみに。もっと言えば兄妹での一番は末の妹だ。五人のムードメーカー的存在のため、あの子のことはみんな好きだと思うけどね。
「林間学校のとき、私も神酒もいないんだから本当気をつけてね。学園長以外にも頼れる先生っているの？ 私、学年外の教師って詳しくないんだけど……」
「はいはい。そこはもうちゃんと考えてるから。……結局、俺が心配させてるし。いつものパターンじゃねえか」
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作者名：東雲れーた | 作成日時：2024年3月10日 14時
