164(23.5話) ページ14
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百鬼学園に入る前の私。当時、同級生にいじめを受けていたことを知るのはこの中では佐野だけ。参組の中なら国ちゃんもかな。入学前から親交がある入道も小古曽も鹿島も、神酒すら知らないことである。
昔の私はオドオドしていて、自分の意見もまともに口にできない奴で。周りの顔色ばっかり見てた。教師を呼び捨ての上にタメ口なんて考えられない。
今と随分違うでしょ? 高校デビューと捉えてもらっても構わない。
「Aちゃんにそんな過去が……」
「黙っててごめんね、豆。泥田も紅子も」
「いいって……そんなこと、普通言えねぇだろ」
豆に悲しい顔をさせちゃったな。泥田は『かつての私』に意外な顔をしていた。私にとっては昔のことで、話すのは別に苦ではない。でも、言われる方は違う。大抵は重く捉えてしまう。気軽に相槌できる話題じゃないからだ。
話すタイミングも分からないこともあり、今日に至っただけ。三人を友達だと思ってないとかそういうことじゃないからね?
「A」
「……何、紅子」
「壱年のときに言ったことを覚えているか?」
私は鬼だ。「なんの鬼?」と訊かれたことは数え切れないほどある。頑なに言わないのが逆に怪しいって、新聞部に付きまとわれたことも。
オープンにしなくても騒がしいのは予想外。このままでは事が大きくなる。だって、私……っていうか。家族と付き合いのある他の鬼たちに「俺たちがシメとく?」なんて言われたらさ。さすがに放置できない、やめて。
頭を抱え、ため息ばかりしていた時期がある。そしたら紅子が……
『何者だっていいだろう。AはAだ』
真っ直ぐな目に捕まった。
思考が止まる。紅子は妖怪や鬼としての名称ではなく、周りが騒ぐ前からずっと……私自身を見てくれていたんだ。すごく、嬉しかった。
「うん、もちろん」
「私は今のAしか知らない。別に何も変わらないぞ」
「紅子ならそう言うと思ってた」
思わずぎゅっと抱きつく。わーい。
彼女は「おっと、」と驚いた。私に、歩けないと言ってくる。でも鬱陶しそうにはしないからやめない。そしたら佐野たちに追い抜かれてしまった。戯れてないで行くぞと言われるまでくっついていた。
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「あ、このことは他の奴には言わないでね」
四人は分からないと思うけど、鬼の界隈はシビアなんだ。
力も知能も高いのにいじめられてた……なんて知られたら、最悪バカにされて笑われる。そういう世界なの。
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時