163# 君のおかげ ページ13
▽
晴明くんのフリをしている雨明くん。大事をとり、その日は一日保健室で過ごすことに。そして授業が終わって放課後。私たち五人は彼を連れて、港を訪れていた。用も済んだからと、もう帰るらしい。
弟が心配ってだけで、財布を片手に着の身着のままに来てしまったらしい。そのため長居は出来ないと言う。けれど今はしこりが取れたみたいに晴れやかな顔。
「でも来れてよかったわ。たしかに祭りで疫病神が言うてた通り、晴はええ教師なんやな」
「えっ! 佐野くんそんなこと言ったの!?」
「っ……、余計なこと言ってねーで早く行け!!」
豆たちには知らない話。普段の佐野を知ってる側からすれば意外も意外だもんね。彼は頬を赤く染めると雨明くんの背中を蹴る。照れ隠し。
早く行け、そう言われずとも。そろそろフェリーが出る時刻だ。東京行きの最終便、これを逃せば今日は帰れない。乗り込むため雨明くんは歩みを進める。これからは十時間の船旅が待っているのだ。…………。
「雨明くん!」
「ん……?」
「あのね、私ね。教師なんて信用してなかったの」
学校の先生。その生き物は、自分に火の粉が振りかからないように見て見ぬフリをするタイプもいる。妻がいて、子どもがいて。稼ぎ頭だから、生活のためにも問題を起こすわけにはいかない。かつて私は、そういう教師が担任のクラスにいたの。
端的に言うといじめを受けていた。当時……担任はこう言った、私にも悪いところがあったんじゃないかって。そのときはショックだった。次第には、そうとしか思えなくなってしまった。
私が上手く立ち回れたら。あの子たちの機嫌を損ねてしまったから……。
「でも……晴明くんは違う。私のこと助けようとしてくれた。私の前で両手を広げて、危険から守ろうとしてくれたんだよ」
私は鬼で、彼は非力な人間なのにだ。
「もう一度、信じてもいいのかなって思えた」
「椎名……」
「……迷惑かけられることも多々あるけどさ。赴任前はそれなりだった学校生活が、今はちょっと楽しいって思うんだ」
.
雨明くんが乗った船が出る。いつまでも互いに手を振り合った。
見送りが済んだ頃、東の空には夜が近づく。私たち踵を返して寮への道を引き返した。最初に口を開いたのは泥田だ。
「あ、あのさ……。椎名って……」
「聞きたいことがあるならはっきり言え」
半端な気遣いはウザイだけだ。
本気で知られたくないなら、そもそも言わないよ。
.
34人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時