161# 弟の存在 ページ11
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良い教師……、「良い」の定義ってなんだろう。人柄? それとも努力で得てきたもの? 教師が向いていると思う理由なんて一通りではない。
でもまあ単純に考えよう。普段の晴明くんを頭に浮かべる私たち。手放しで即答はするにはちょっと……あー、えっと。まあ……。良いか否なら、うーん……。他の奴らもはっきりしなかった。
「いや……いい教師だぞっ、な?」
「おうよ! 例えば……」
それ、泥田は雨明くんの抽象的な言葉を使っただけだから。ていうか同意を求めるな。何か言わなきゃいけなくなるだろ、そう思った面々は泥田から目を逸らした。素直に応えるのは秋雨のみだった。
たとえば。彼は『晴明くん』の良いところを絞り出そうとする。頼む、何か言ってくれ。そう思ったが祈りは届かず。「……特に思いつかなかったけど、お前は良い先生だよ晴明!!」……とってもいい笑顔だ。
内容はともかく悪態をつくのは憚られる。これに続いたのは豆と自分。
「せ……生徒をすごく大事にしてるとは思うよ。こないだも、佐野くんがお誕生日でね。ねぇ、Aちゃん」
「うん。晴明くんは佐野をテーマに歌を作ってきて校内放送で歌ってお祝いしたんだよ。……まあその後、ブチ切れた佐野に悪魔召喚の生贄にされてたけどね」
「いつもみたいにロクな結果にならなかったけど、一生懸命なところは評価できると思うんだ。……で、これがそのときの悪魔!」
当日、昼休みも折り返した頃だった。昼食が済んで残りの時間は思い思いに過ごそうと席を立つ生徒たち。教室より、廊下の方の密度が高くなってきたら急にスピーカーから担任の声が聴こえてきたのだ。
晴明くんってギター弾けたんだ、と思ったのもつかの間。へったくそだった。触ったこと無いのにケチをつけるのもどうかと思うが、この学校には軽音部がある。何かイベントや昨年の文化祭のステージで彼らの演奏を聴いたことのある私からしたら、……うん。
ま、演奏技術もだが問題はそこじゃない。血管を切りそうな勢いで怒りのボルテージが上昇した佐野はその場から走り出した。行先はもちろん放送室。後は今伝えた通りだ。
豆が悪魔の入った檻を見せてあげる。雨明くんは無言。
ブラコンの彼にお世辞を言ったり嘘をついてもどうせバレるしなぁ……。何の気遣いも無い正直なところ、晴明くんに教師は向いていない。……でも。それなのに、続けられる理由があるとすれば……。
「晴明先生!」
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時