152# ドッペルゲンガー再び(4巻23話) ページ2
▼佐野
チャイムまであと数分。自分の左隣の空席をチラリ見る。
殆どのクラスメイトが登校していて、賑わう教室内。だが椎名はまだ来ていない。座敷すら流石に来ているというのに。弐年になってから頑張っているみたいだけど、たまにこういうことがある。だがまだ猶予はある。
「ん、」
「佐野くん?」
「ごめん豆。スマホ」
制服に入れていたスマホが震えた。豆を両腕で抱っこしていたが、ひとつはスリープ状態の電子機器の方へ。メッセージを受信したらしい。相手は今しがた考えていた奴。『今起きた』……、あー今日は間に合わないな。
ま、でも。壱限目は晴明だった気がする。晴明なら多少遅れても許してくれるだろ。椎名の過眠体質は、トイレなどの生理現象と同じようなもの。この前みたいに午前中に何時間も寝ていたり、もっと前には連休明けに登校できずに眠っていたり。それらと比べたら遅刻なんて大したことない。
「椎名の遅刻決定」
「そっかー。おれたち最近、褒めるの忘れてたもんね」
「え?」
「覚えてない? 新学期始まったばかりの頃、Aちゃん言ってたよ。今年は褒められて伸びるタイプで行くって」(壱6頁参照)
…………言われたらうっすらと、そんなこともあったような? 頭の隅に押し込まれていた記憶が蘇る。最初のうちは豆も「今日で何日連続だね」と言っていたが、いつの間にか聞かなくなった。ていうか俺も、今の今まで忘れていたわ。
思案にふけっていたがチャイムが鳴る。前の引き戸が開く音で現実に戻ってきた。駆け足で入ってきたのは秋雨だった。頬は赤みを帯び、汗をかいている。余程急いできたらしい。椎名に足りないのはこういうところ。そう思ったのは秘密だ。
「秋雨くん、お寝坊かい?」
「ち、違うわい! え〜っと、力ツアゲされてる猫がいたから救ってやったんだよ!」
「へー……偉いね」
「あっ、信じてねーな」
日頃の生活態度や、秋雨自身のこと。どんな奴かよく知っている方からすれば嘘だろうな、豆が言ったことは図星だろうな。咄嗟に出た言い訳なのはすぐに分かる。
まあ、そんなに気にする必要ないよ。まだ来てない奴もいるしさ。教室にはいるんだし、晴明なら怒らn……
「コラッ、チャイム鳴っとるぞ!」
え?
開け放しの扉から入ってきたのは晴明だ。けれど晴明とは思えないことを言い、見たこともない目でこっちを見ていた。
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□佐野くんは後々「玉緒」呼びしてますが、このときはまだの設定
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作者名:東雲れーた | 作成日時:2024年3月10日 14時