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なんでもいい。彼の名残を繋ぎとめておける手段が欲しかった。声を忘れてしまったことをきっかけに、他の記憶もなくしてしまうのではないかと怖かった。規則正しい罫線の入ったそこに、けれどそんなものは歯牙にもかけないで書きなぐる。私たちの、私の記憶を。高校時代の、毎日がめちゃくちゃで、楽しかった頃の話を。
本当になんだっていいんだ。探せ、くまなく。日向はよく影山や月島と喧嘩していただとか、どう足掻いてもがいても勉強は苦手だったとか、卵かけご飯が好物だったとか。今まで記憶の隅に追いやっていた情報を、隅から隅までをさらった。派手な音を立てて芯が折れ、思わず舌打ちする。
何度芯を出しては折りを繰り返しただろう。数分だった気もするし、数時間そうしていた気もする。突然、スマホが低く唸った。画面に浮かんだ「月島」の文字を見て、はたと夢から覚めた心地になる。何してるんだ、私。これじゃまるでストーカーだ。ひどい虚無感と嫌悪感に苛まれて、私は文字通り筆を投げた。ペンが机めがけて急転直下、硬質な音を立てる。
「……もしもし、」
「遅い」
「ごめん……」
「一時間後に駅前集合ね」
「え、なに？ ……ちょっと！？ 切りやがったな！？」
信じられない。一方的に要件を告げた月島は、そのまま通話を切ってしまった。普段なら絶対にそんなことしないのに、まさか意趣返しのつもりだろうか。ツッキーめ！
その後も電話は出ないし、メッセージは既読スルーされた。何が何でも応じるつもりはないらしい。仕方がないので、なんだかひどく重い体に鞭打って支度をする。鉛で汚れたルーズリーフをクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
ドアノブに手をかけて数秒逡巡する。今の私。鏡を見る気にもならないほど、きっとひどい顔をしている。適当に服を選んで、適当に最低限の化粧をした。背中は丸まっている。髪の毛だってきっとぼさぼさだ。それに外はきっと暑いし。月島、意味分かんないし。
外に出たくない理由なら、いくらでも挙げられるけれど。それでも私はやっぱりドアノブを捻った。もうなんだかやけっぱちだった。月島に文句を言ってやらないと気が済まない。八つ当たりだと分かっていてもだ。
思い切って飛び出した扉の外はやっぱり冗談みたいに暑くて、ずくずくと痛む頭が侵されていった。
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さかき(プロフ) - 莉葵さん» ありがとうございます！次の作品もぜひ読んでやってください〜 (2020年5月31日 12時) (
レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - 追記.応援してます！新作できたら、教えてくださいね(^^)日向愛が溢れちゃってます汗 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
莉葵 - すごく良いお話でした！感動しました！日向を見る目が少し変わった気がします笑 (2020年5月30日 12時) (レス) id: 5b76c35070 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - Ria*さん» 励みになります、ありがとうございます！日向いいですよね… (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 依さん» 依さんありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです！こちらこそまた読んでやってくださいな！！ (2020年5月29日 22時) (レス) id: 8b909e2b91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さかき | 作成日時：2020年5月29日 16時
