どうか呪われますように！【及川徹】 (ページ9)

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本性ページ9

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　中学時代からのオーバーワーク。天才との確執。白鳥沢。故障。牛島や影山。岩泉から聞いた話が断片的なワードとなって、脳内をびゅんびゅんと行きかう。

　私たちは、春高の県代表決定戦で白鳥沢に敗れた。つい一昨日のことだ。
　私たちが入部してから、公式戦だけでも四回目の敗北。及川や岩泉たちは中学生のころから何度も対戦していたというから、通算何度目になるのだろうか。想像もしたくなかった。

　先輩方――ほとんどは春高予選まで部活を続けることを選んでいた――は、とうとう引退してしまって。人数が少なくなった体育館には、冷たい風が吹き込んだ。まだ冬は遠いと思っていたのに、いつの間にやら目前に迫っていたらしい。

　昨日の部活は引継がメインだったうえ、疲れているだろうからと居残り練習は禁止されていた。特に及川、と新しい主将となった彼は名指しで注意されていたくらいだ。
　そして今日。私はその言葉の意味を理解して、小さく身震いした。

　無数に転がるボール。及川は、もうずっとサーブを打ち続けていた。
　決勝戦は五セットマッチで、一進一退の展開だったので最終セットまでもつれ込んだ。疲労が一日や二日でとれるわけがない。事実、体育館に残っているのはもう私と彼だけだ。つい先ほど花巻と松川が部室に着替えに行ったから、及川もそろそろ切り上げてくれるのではないか。そんな私の願いも虚しく、彼は黙々と練習を続けている。

　声をかけるべきだろうか、なんて愚問だ。岩泉ならまず間違いなく殴ってでもやめさせていただろう。しかし、彼は今日は居残り練習をせずに帰ってしまった。用事とやらが恨めしくなる。

　すう、と息を吸い込む。怖いのだ。鬼気迫る雰囲気の彼が、余計なことをして嫌われる可能性が。部活に私情を持ち込まないように、なんて私が言えたものではないな。思わず失笑しそうになる。

　けれど、何より怖いのは彼が故障してバレーができなくなることだ。だから私は、思い切って大きな声を出した。

「及川！」
「……なに」

　感情がすこんと抜け落ちたような声だった。少し掠れて低い。

「及川、そろそろクールダウンしよう」
「んー、もうちょいやる。先帰ってて」

　普段、及川は誰とでも目を合わせて会話する。なのに、今の視線は手元のバレーボールに注がれたまま。コート脇にいる私には目もくれない。