身勝手メランコリー ページ8
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そうして私と及川は恋人とか言う関係になったわけだけれど――まあ、表面上は何も変わらなかった。当たり前だ。私が、そうなるように仕向けたのだから。
「及川くーん」
「はいはーい」
だから、こういうことも相変わらずだ。
甘ったるい声。可愛い髪形。校則に違反しない様に薄く施された化粧。綺麗な手は、きっとハンドクリームやら何やらを駆使して手入れされているのだろう。
それに比べて、私の手は荒れているし、髪型は邪魔にならない様に質素なポニーテールだし。化粧の類はせいぜいリップクリームが関の山だし。何一つとして可愛い要素がない。
「おー、相変らずモテるねえ、及川は」
「うっわ、あの子五組の高嶺の花ちゃんじゃん!」
「告白か?」
「たぶんそうだろ、むかつくわー」
ぽんぽんと、岩泉と花巻と松川がテンポのいい会話を繰り広げる。私はそれに参加せず、去っていく及川の背中をぼんやりと見つめていた。
「進藤?」
「……あ、ごめん。なんでもない。腹立つなって」
「なー。イケメン滅べ」
花巻が大袈裟に顔をしかめるものだから、思わず頬が緩む。及川がここに居たら、まず間違いなく余計なことを言って袋叩きにされていただろうな。しかし、そうやってまた彼のことを考えているのに気が付いて、私は憂鬱になるのだ。
及川と付き合ってから、私はなんだかおかしい気がする。彼が女の子と親し気にしているとなんだかもやもやする。前はそんなこと、絶対になかったのに。
流石にこの感情を知らないほど、無知でも鈍感でもない。けれど名前を付けてしまうと飲み込まれてしまう気がして、私は必死に目を背けている。
同時に、私は思っていた以上に及川が好きなんだなとも思う。それは奇妙な、納得に近い感情だった。執着とかそういうもの、生まれてこの方感じたことなかったのに。やっぱり私、変だ。
とはいえ、私の発言が結果この事態を招いているわけだし、自業自得だ。だから及川にも絶対に教えない。気を遣わせたくない。
「お、帰ってきた。よっ、モテ男!」
「やめてよマッキー!照れる!」
「どうだったんだよ」
「んー、断った」
一瞬、息が止まった。断ったんだ、……そうか。
私と付き合っているのだから当然のはずなのに、それを当然と思えない自分がいる。自信持てって、言ってくれたのに。
なんでだよもったいねえ、と花巻が騒ぎ出す。と、松川が私の頭を軽く撫ぜた。
「……どうしたの」
「んーん、なんでも」
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さかき(プロフ) - ゆきほのかさん» コメントありがとうございます!励みになります (2020年3月11日 17時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきほのか(プロフ) - めっちゃ面白いです!! (2020年3月11日 0時) (レス) id: 3f5a9f5341 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2020年3月6日 20時