どうか呪われますように！【及川徹】 (ページ13)

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ロマンチックの一歩手前ページ13

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「かぐや姫の無理な要求呑まされてる王子の気持ちだよ」

　王子さま。もしかすると私や岩泉たち以外の人から見た彼はそうなのだろうか。私も昔、作り物みたいに綺麗だと思っていた。まるで、虚構の世界から飛び出してきたみたいに。そうは見えなくなってしまったことはちっとも残念でなくて、寧ろ嬉しい。だから私は、笑って言った。

「王子ってガラでもないでしょ」
「まあそうなんだけど！及川さんの優しさに感謝してよね！」

　でも、聞いてくれるんだなあ。その事実をじんわりとかみしめていたら、ぐっと手を引かれて顔と顔の距離が縮まった。瞬間、私の唇を彼のそれが掠める。おかげで何を言おうとしていたのか忘れてしまって、口からはただ間抜けな声が漏れた。

「……え、なに……？」
「謝礼金的な……」
「謝礼金て」

　そんな理由つけなくても、したくなったらしてくれていいのに。思ったままを口に出すと、及川は頭を抱えた。

「えー……ズルくない、お前」
「あ、もちろん人の目があるところではだめです」
「分かってたよチクショウ！」

　彼の肩越しの月は大きく、穏やかに輝いている。先程の及川の発言と結びついて、ふと竹取物語を思い出した。子供向けの絵本での知識しかなかった私は、かぐや姫の無茶な要求に驚いたものだ。そしてそれ以上に、疑問に思うところがあった。

「ね、かぐや姫の求婚者たちは、なんであんな難しい要求を呑んだのかな。ずるした人が大半だったけど、誰一人じゃあ立候補やめますってならなかったじゃん？」

　話にしか聞かないような宝物を持ってくるよう言われて、なんて我儘な女だと思わなかったのだろうか。いや、思ったのかもしれないが、どうしてそれで諦めようとならなかったのだろう。

「そりゃ、好きだからでしょ。かぐや姫が」

　及川がはじき出した答えは単純明快で、私は拍子抜けしてしまう。もっとこう、難しい話かと思っていたのに。

「少なくとも俺はそうだよ。ねー、ワガママ女？」

　ぎゅう、と少し痛いくらいに手を握られる。そうか、この場合のかぐや姫って私か。申し訳なく思うところなのかもしれないが、なんだかおかしくて笑ってしまった。

「私は姫って感じじゃないし、及川も王子じゃないのに。ロマンチストだね」
「うるせ」
「でも、ありがとう。我儘聞いてくれて。好きでいてくれて」
「やっぱりズルいよ、お前」

　顔をしかめる彼の髪の毛がふわふわと揺れていて、ぼんやりとああ好きだなと思った。