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形のいい唇が、少し歪められる。
「俺ちゃうよ、それ治から」
「……まあそうか」
そうだよね、私がこれを落としたその瞬間を見ていたのは、侑くんじゃなくて治くんだ。でも、それならどうして侑くんを介したんだろう。
「あいつだって気ぃ使っとるんやで」
「申し訳ないとは思ってる」
「治の何がダメなん?」
「ダメとかじゃないよ!むしろ私には勿体ないくらいで……」
分かってる、なんてわがままなんだろう。とんだ悪女やなあ、という侑くんの言葉もため息混じりだ。
「あくじょ」
「反論あるん?立派に弄んどるやん」
ないです、と言って項垂れる。というか、出来ない。
呆れた、と言うようにもう一つため息をつく。いつかは決着つけんとあかんで、という言葉が耳に痛い。
「うん」
ちゃんと、分かってる。
「辛気臭くなるなや、こっちに移る」
「ひど」
どうしていいのか分からなくて、こっちはちょっと泣きそうなんだけどな。でも、彼なりに気分を明るくさせようとしてくれているのだろう。
とてもくだらない仮定だけど、ふと一つの考えが浮上する。
「侑くんを好きになれてたらよかったのにな」
「は? 何言うとん?」
「……あれ、声に出てた?」
不快そうにひそめられた眉。まずい、すごく失礼なことを言ってしまった。慌てて言い訳を並べ立てる。
「ごめん、くだらないこと言った。だって、侑くんは絶対私のこと好きにならないでしょ?」
「当たり前や、お前みたいな貧乳」
「はあ!? 私も侑くんみたいな性悪絶対好きになりませーん! 治くんを見習え!」
「上等や表出ろや!」
「貧乳なめんなよこの巨人!」
立ち上がる侑くん。椅子が物騒な音を立てる。応戦するように私もスクールバッグを構えた。知ってるんだぞ、侑くんがサーブの邪魔されたら、たとえ味方の応援でも容赦なく罵るって噂……! 所詮噂で眉唾ものだが、魔王モードを知っている私は半信半疑ってところだ。
ぎゃんぎゃんと噛みついてくる侑くんに応戦する。口げんかのスキルは、宮兄弟を見ていたら自然に上がる。すっかり空気は和んだから、まあ結果オーライか。
「……で? 何が言いたいん、結局」
「私には不毛なくらいがちょうどいいのかなあって」
お互い肩で息をする。健闘を称えあおうと右手を差し出すと、握手どころかアホ言ってらとその手をはたき落された。
「お前重症やな。はよ治に矯正してもらえや」
「それができてたら苦労しないよ」
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さかき(プロフ) - mimiさん» 話数的にあと一話だけなら書けそうです。内容によっては私に向いてないかもしれないんですけど、もしよかったらリクエストとかありますか?あるようでしたらボード?にお願いします (2019年9月19日 7時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初コメ失礼します。きついです、この作品まだまだ続いて欲しいです…( ; ; )本当に2人とも可愛くて… (2019年9月19日 2時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - 瑞稀さん» やったー!好きとか可愛いとか言って貰えて嬉しいです!治は甘え上手なイメージがあります笑番外編も楽しんで貰えたら幸いです! (2019年9月18日 23時) (レス) id: 8018115b1b (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - あぁぁぁ!!!めっちゃくちゃ好きです!!!番外編も嬉しいですありがとうございます!!治くん甘えた可愛すぎて… (2019年9月18日 18時) (レス) id: be8945b53e (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - まゆ。さん» おつありです!満足いただけたでしょうか。治で書くかどうかは分かりませんが、書きたいネタはいっぱいあって私自身ワクワクしてるので、よかったらまた読んでやってください!お粗末さまでした! (2019年9月18日 16時) (レス) id: cb48af79f3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年8月9日 17時