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夜の帳に隠れて ページ5

 
穢れのない真白に身を包んだ少女は、身動きすらまともに許されない拘束に身体を預けるほかなかった。目的地に辿り着くまで決して解けぬよう結ばれた麻縄が、栄養も満足にとれていないであろう手首を縛る。ひりひりとした痛みも、この短い旅路のなかで、和らいでくれるといいのだけれど。

「お世話になりました。お元気で」

今世の別れになるかもしれない。だからこそ、記憶の片隅にでも。残雪に溶け残らぬようにと願う。悪夢として他人の人生を荒らしたくはない。精一杯、気丈(きじょう)に振るまってみせた。小舟の結び目がしゅるりと水面に浮かんだのを合図に、少女を乗せた船は進む。川の小さな流れに沿って、ゆるりゆるり。両面宿儺に捧げられる、十七人目の贄となるために。


*


「随分と待たせたなァ、十七人目よ」

"御前で最後だ" と、男は口にした。愉快そうに、それでいて品定めをする鋭利な眼光。気に入らなければ即 切り捨てる。そういった仄暗い独尊がひしひしとこちらまで伝わってくる。私と同じ人の子であるというのに……。覚悟は決めてきた。そのはずだ。それでもいまになって呼吸が浅くなる。この男は、己の快不快のみで他人の命を摘み取れるのだ。いとも簡単に容易く。あまりにも楽観的に。

この場から一刻もはやく立ち去りたかった。けれども少女を乗せた小舟は、水(かさ)のなくなった浅瀬に漂流してしまう。慈悲もなく足場が確保されたことを見届けると、男はより一層 機嫌良さげに眉をあげてみせた。

「こちらへ」
「……っ、はい」

男の一歩後ろ、斜めの方向から着物を着た小柄な女が手を差し伸べた。震えのとまらない右手、指先を無理やりに相対する左手で抑え込む。やっとの思いで繋いだそれが、少女の生命線となったのだった。
 

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設定タグ:呪術廻戦 , 両面宿儺   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:百合郷 | 作成日時:2021年6月19日 4時

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