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果てはないと笑うゆめをみた ページ1

 
「――夢のなか、漂った(こう)を頼りに。私は、あなたの袖を引くのです」

気難しい(かんばせ)をしたあなたが、触れた指先を感じとったあと。瞬間的に柔く(ほぐ)れる表情が、あの一時が、なによりも愛おしい。あなたのやさしい詩を。私はもっと、もっと。

「千代に八千代に、あなたと(とも)にいられるように。次はそう……。花にでもなって、咲きましょう」

あなたの一等 近くに、咲き誇りましょう。小振りで薄色の。視界に入れても決して邪険に思われぬような。ただ、枯れることのない花に。

「おまえはならん。おまえだけは、如何(どう)してもならん」

――A、逝ってはならぬ。

女の独り言だったそれに、初めてそれらしい反応が返った。それは悲願にも似た響きをもって、Aの遠くなった鼓膜を揺らした。

男の武骨な手が、幾重にも散らばった女の髪を撫ぜる。時折 掬いあげた一房(ひとふさ)に、躊躇いのない口付けが落とされる気配を感じとって、眉が下がった。

「散りぬべき時を知りてこそ。花は花なれ。人は人なれにございます。さすれば神は、慈悲を下さるやも知れません」
戯言(ざれごと)を言うな。神なぞ信用に値せん。おまえが信仰するのは神ではなく、この俺であろうが」
「ふふ、悋気(りんき)深い方ですこと」

稚拙(ちせつ)にも実直である、まばゆい言葉たち。私はそのどれもがやはり、愛おしく思えてならなかった。彼もそうであったなら、なんと僥倖(ぎょうこう)なことであろうか。

「……宿儺さま。もう、その頃にございます」

あなたと(めく)った在りし日になる思い出を。この両手いっぱいに抱え込み、逝きましょう。最期のときまで、きっと。手を、離さないでいてくださいね。

「逝くな、A。逝くな」

そう切なげに名前を呼ばないで。あなたに与えられたこの名が、縛りとなって残留してしまわぬように。

「――久遠に、お慕い申し上げております。一足先に立つご無礼を、お許しくださいな」
 

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設定タグ:呪術廻戦 , 両面宿儺   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:百合郷 | 作成日時:2021年6月19日 4時

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