沖田総悟【中村】 ページ6
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庭に咲いた桜の木が、薄紅をまとい始めた今日この頃。視界の端でちらつくそれらをよそに、私は大きく息を吸った。
「──たのもう!!」
そんな声がぶつけられたのはとある屯所の一室である。麗らかな朝に大声は似合わないけれど……相手が相手なんだから仕方ない。
微塵の遠慮もなく戸を開けば、そこではいつも通りアイマスク野郎が寝息を立てていて。
「総悟。また土方さんに叱られるよ」
呆れ百パーセントでその体を揺さぶると、くぁ、なんて欠伸が落とされた。そのままアイマスクを取ろうともせず、「……こんな朝っぱらから騒がしいのはどこのメス豚でィ」と。
寝起きのせいかいつもよりさらに気だるい罵倒も既に慣れっこだった。と、いうのも最近毎日のように土方さんに総悟を起こして来いと命じられてしまっているからである。
(……もしかして、一番隊副隊長って隊長の世話係?)
最近ではそんな疑問さえ浮かんでくるほどで。誰か私に救いの手を。いやホントお願い。
そんな私の憂鬱など知ってか知らずか──多分、知った上で──再び眠りに入り込もうとする総悟へストップをかけた。無理矢理アイマスクをずりあげてやれば、恨めしげな眼が覗く。
「……眠れねェじゃねーか」
「眠りを阻止しようとしてるんだけど」
「んなことして何になるんでィ、春眠が暁覚えるわけねーだろ」
人間、一体何をどうしたらここまで傍若無人になれるのか。「くその役にも立たないけど、土方さんからの頼まれごとだし。こっちは仕事なの」言い聞かせるように発してみれば、「……へェ」
やはり気だるげに打たれた相槌が、面白くなさそうな色を含んでいたので引っかかった。
「……文句でも?」
思わず尋ねてみるも、そいつの表情から何かを窺うことはできず──その代わり返ってきたのは「……そういやァ」なんて何か思いついたかのような声。
いくら寝起き、いやむしろ寝ぼけ中だとしても今目の前にいるのは他でもない沖田総悟である。続く言葉はどんなものかと私が身構えていれば。
「てめー、仕事中はケジメつけるために敬語遣うとか言ってやがったろィ」
「……言ってたし実行してたけど、それが何?」
それはいつか私が発した言葉であった。総悟とは長い付き合いだから、本来遠慮なんてものないんだけど──ケジメをしっかりしようと思うくらいには私にも真選組としての自覚があるのだ。
……でも、この流れでそれが出てくるとは。一体どんな脈略なのか。
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あくび少女 - こんな綺麗な物語、いつか私も書きたいです。 (2019年7月20日 22時) (レス) id: 1b61770dea (このIDを非表示/違反報告)
きなこ(プロフ) - 今までどの作者さんも好きでよく拝見させていただいてました。今では、憧れから自分の小説を書いているのですが、皆さんの素晴らしさを身に染みて感じました。(宣伝みたいですね……ごめんなさい。)これからも沢山の作品を楽しみにしています! (2018年2月6日 22時) (レス) id: 6b9c59579e (このIDを非表示/違反報告)
うおーあいにー(プロフ) - 私が今まで見たことのない位の語彙力と素敵な言葉でできていました! (2017年12月9日 8時) (レス) id: 7ec2bdde97 (このIDを非表示/違反報告)
みぷ(プロフ) - 文章一つ一つが綺麗で、とっても素敵だなと思いました!表現や言葉にも意味が詰まっていてぜひ参考にしたいなと思う作品でした!次の企画があることを楽しみにしています! (2017年7月28日 18時) (レス) id: 941945c1ec (このIDを非表示/違反報告)
戦胡蝶(プロフ) - 本当に綺麗な言葉で綴られたお話ばかりで全部一気に読んじゃいました!素敵なお話ばかりで心がほっこりしてます!!素晴らしい作者様ばかりで私も見習わないとと意気込んでおります(笑)またこういう企画を行ってくださるのを楽しみにしてます! (2017年7月27日 13時) (レス) id: de5c5c0c62 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ x他4人 | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年7月1日 1時